(彼奴のうつくしさが欲しい)




光の波の性質、屈折。
干渉も回折も大切だけれど、水の中に住む私にはそれが一番触れる機会があった。
水中から見上げる空は透明を通してあお、あれは水色と呼ばれているらしいけど、馬鹿ね、水はそんな美しい色をしていない。
あのあおいろの先には宇宙というものがあるらしい、宇宙ってどんなものかしら。
まぁ、一生を水の中で消費するのだろう私には、関係ないけど。

「フゥ太は宇宙を見たの。」
「それは僕に一番近い場所だ。」
「どんなところなの?なにを考えるの?」
「誰もいない広い闇。すごく孤独で、寂しい、寒い場所だよ。」

魚の下半身を持つ私はチョウチョに憧れた、自由に羽ばたける強い翼、力。
けれどそうではなかった。
彼は飛ばなければ生きていけなかった、何にも自由なんかじゃなかった。

「ブルーベルは水を知ってるの。」
「それは私に一番近い場所。」
「どんなところなの?なにを考えるの?」
「誰もいない広い虚。すごく孤独で、寂しい、暗い場所だよ。」

泳げないチョウチョは魚を羨んだ、鱗粉を持たない、死なない、溺れない。
けれど私は魚だから知っている。
私は泳げなければ生きていけない、何にも自由なんかじゃなかった。

「似ているのかも知れない。」

だから彼はあれを水色と呼んで、私はあれを宇宙色と呼びたがるのかも。
触れられない場所に夢を見る。
ただただ生きるどうぶつの瞳で。
聞こえますか、見えますか、そこに波は伝わっているのでしょうか。
私は未だ水の中にいる。
だからどんなに彼がそこは私が思うほどには美しい場所ではないと警句をくれても、私はやはり羽根が欲しいと思うのです。
彼が鱗粉を削ぎ落とされても死なない身体になりたいと願うように。
漸く手に入れた人間の足で飛べないながらも地上に出てみたのはいいけれど、あんなに明るかった水中からは一変、陽は最早あの水平に消えていこうと大分傾いていた。
これは屈折による現象なのだという、あぁ速度すら宇宙と水中では正確に伝わらない、私の世界は彼とは違うのだ。
夜が私を脅かす前に、この足が魚に戻らないうちに、私はあなたを見つけなければいけないのに、こんなに広い世界では。



 



 



 
(最終兵器人魚姫と星の王子様)


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