真6弔花達の談話室にあるテーブルにカチャリと食器が触れ合う音がする。 「さあブルーベル、お茶とケーキの用意が出来ましたよ」 「やったぁ!今日のケーキは何?イチゴ?リンゴ?それともオレンジ?」 「ハハンッ、全部外れですよブルーベル。今日はチェリーパイです」 「チェリーパイ!」 ぺたぺたと小走りでテーブルに近付き、ガダンと勢い良く座る。目をキラキラさせながら見上げるブルーベルに桔梗はニッコリと笑い、チェリーパイを出した。赤黒いダークチェリーを使って作られたパイは実に美味しそうだ。 「桔梗って本当に料理が上手よね」 「おや?料理が得意な男性は嫌いですか?」 「そ、そんな事ないわ。寧ろ好きよ!」 「そう、なら良かったです」 またニッコリ笑うとパイを切り始める。サクサクと音を立ててパイが切れる。 (…料理が上手な男が好きっていうより、あんたが好きなのよ、桔梗) でもそれを口にしない。何故なら自分はまだ桔梗と釣り合う女性ではないからだ。そんな事は知らない桔梗は香り高い紅茶をティーカップに注ぐ。好きな人が作ったケーキと入れてくれた紅茶を好きな人と一緒に楽しむ。乙女ならば誰でも嬉しい。 「ではブルーベル、先に食べてて下さい。私は白蘭様に呼ばれているので」 「ニュニュウ!!」 鼻唄を歌いたい気分が一気にどん底へと落ちていった。 「びゃ、びゃくらんに!?」 「ええ、本当は少し前から呼ばれていたのですが、パイを焼いた後で良いと」 「ニュー…どのくらいで帰って来れるの?」 「それは白蘭様次第ですね」 「直ぐ帰って来て!直ぐよ!!」 「…白蘭様に交渉してみましょう。そうだ、今ちょうど10分計れる砂時計があるのでその間に帰って来ましょう」 「えー10分もぉ…」 腕をだらんとさせ、ぺちょりと顎をテーブルに乗っけるブルーベルの頭を桔梗は優しく撫でた。 「帰って来れなかったらブルーベルが好きなものを作りましょう」 「……わかったわ。行ってらっしゃい」 「いい子にしてるんですよ、ブルーベル」 一撫でするとテーブルにカタンッと砂時計を置いた。ブルーベルがじーっと砂時計を見ているとガラス越しで桔梗が部屋を出て行くのが見えた。 「…早く落ちないかな」 早く帰って来て欲しいが桔梗が作った料理も食べたい。恋する乙女の葛藤だ。テーブルに顎を乗っけたまま砂時計をいじる。一回振ってみたり斜めにしたり、色々やってみたが砂が落ちるスピードは変わらずさらさらと落ちる。 (……人間って砂時計みたい…) 人それぞれ大きさも砂の量も落ちるスピードも違う。ちょいっと人差し指で砂時計を押してみた。彼女はまだ、自分の中の砂時計が見つからない。 fin |