06

「お前、もしかして…ここで、人を殺めたのか?」
「…あぁ。」
「罪のない人々を、切り刻み、殺したのか!?」
 興奮したような口調で、目を見開いてウィリアムが問いかけた。トムは俯いた。少し間が開いて、
「…うん。」
と聞こえた途端に、ウィリアムは苦虫をかみつぶしたように息を詰まらせた。そんなウィリアムを横目で見つめながら、蝶子は口を開いた。
「…辛いかもしれませんが、私情を混じえてはいけません…。」
「…わかってる。」
 ウィリアムは鬱血するほどに拳を握り締めた。
「トム…最後に聞かせてくれ。殺した理由は?」
「金が貰えたからさ。」
 そう答えたトムの目には、もはや、あの頃のような輝きは既に無いに等しかった。
「僕は君が羨ましかったよ。僕が苦しいときに、は悠々と暮らしているのかと思うと、物凄く憎たらしかった。そうして、教会を出て暮していくうちに、この世界に入り込んだ。金がなくて飢えに苦しんでた僕を救ったのは、この仕事だ。今でも、そりゃあ罪悪感湧いてどうしようもなく消えてなくなりたいと思う。だけど、やっぱり自分が可愛いからさ。」
 影の差したトムの顔に、自虐的な笑みが浮び上がり、すぐに消えた。
「でもさ、殺していくうちに、心のどこかで楽しんでたんだよ。幸せそうに暮らしてる奴らをこの手で壊すことが、僕の一つの快楽だった。」
 口角を上げて不敵な笑みを浮かべ、トムはウィリアムの目を見た。それ以上は語ることなく、ただウィリアムに全てを委ねるようにじっと見つめていた。ウィリアムは静かに腕を挙げると、
「清水に生きる我に力を。」
と、表情を消し去りながら唱えた。すると、水を操ることができるウィリアムは、小さな弾丸を作り出し、彼の胸を貫いたのであった。
 パァン、と銃声のような音が鳴った後、水が地に落ちる音、トムの体が重力に従って落ちていく音が響いた。その様子を、もの哀しげにウィリアムと蝶子は見つめていた。
「変わったな…お互いに。」
 暫く見つめたあと口を開いたウィリアムに、蝶子は何も言うことなく黙って聞いていた。
「仕方ないじゃ片付けられない。残念じゃ言い表せない。人の死って…ここまで痛かったっけなぁ。」
天窓を打ち付けている雨を見ながら、
「俺が泣けない日に限って雨が降る。まるで、俺を笑ってるみたいにさ。」
と呟いた横顔に、蝶子は、先ほどのトムのような自嘲的なものを感じた。
「笑ってるんじゃない、泣いてるんです。泣けない、じゃなくて、泣いてはいけないって、ウィリアムさんは思っていたんです。」
 寂しそうな背中に、関係のない蝶子が涙を浮かべながらそういった。ウィリアムは、ただ黙っている。
「ウィリアムさんの代わりに、雨が泣いていた。…泣いていいんですよ、ウィリアムさん。」
 子供に言い聞かせるように、柔らかく言って、ウィリアムの背中を見つめていた。直ぐに震え始めたその背中を、離れた所からただ見ていた。


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