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「前線班は早ければ30分で、遅ければ1時間かかる。私達もそれまでに終わらせる必要があるわ」
 そう言いながら、眼鏡の位置をこまめに直しているのは、オーストラリアエージェントのレイチェル・グランドファー 25歳。原則、現場指揮はその班の最年長が務める決まりであるが、彼女は班の満場一致で班のリーダーを務めている。
「物を瞬間移動させる私の能力と、物を別空間に一時的に移動させる能力を持ったエドフェルトは、今回の商品回収に向いている。そこで、私とエドフェルトは商品回収にあたる」
 エドフェルトと呼ばれた男、エドフェルト・ローリッツ 29歳。ピアスを沢山付けているのが特徴的な、寡黙なスイスエージェントである。冷たそうに見えて、可愛いものが好きだという一面を持っている。
「見張りは、距離を操れるフランシスに頼む。人の気配がしたら微妙な位置調整を任せた。」
そして、と間を開けてから、
「人身売買の対象物として捕まえられた人々の救助を、蝶子とウィリアム。大変だけど、やってくれるわよね?」
 レンズ越しに、レイチェルからのプレッシャーを受け取った二人は、お互いに顔を見合わせて頷いた。

 静まり返っている部屋に、人々が監禁されている。蝶子は、禍々しい空気の流れを確かに感じていた。雨が屋根を叩きつけている音を余所に、二人の息が部屋にゆっくり広がっていく。腐臭に鼻を多いながら、辺りにある台に赤黒い跡が沢山こびりついているのに気づいた。それが血であると理解するのに、そう時間はかからなかった。散乱した道具をよく見ると、メス、ハサミ、ナイフ、針、様々なものに血がべっとりとこびりついていた。
「出品される臓器は、ここで解剖された人のものだな…」
「酷い…」
 蝶子は、これが人間のする諸行なのかと思うと、混沌とした渦が、心の中で巻き起こるのを感じていた。刹那、
「誰だ!」
と言う声が静寂を切り裂き、二人はすぐさま振り向いた。
「トム…?!」
「ウィリアム、なんで此処に君が…」
「お前こそ、どうしてここに!」

 ――時は10年前に遡る。


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