03

「それでは、介入の班を発表する」
 眉間に皺を寄せた険しい顔つきのローゲンが、片手に持ったプリントに視線を落として話始めた。
「競売フロアを前線班、商品とされた人々の救出を前線援護班、本部班はオークション会場とされる場所の外で仮設本部を建て待機」
 エージェント達は、それぞれ技の得手などに応じて班別けが施されている。前線班は主に5人で構成され、最前線に立って介入する。前線援護班は主に5人で構成され、前線班の援護にあたる。本部班は、介入の現地に仮説本部を設置して待機する。それぞれ各班で最年長のものが、その班の現場指揮を行う。ちなみに、蝶子は前線援護班、ローゲンは前線班、マキュールは本部班と配属されている。
「相手は闇オークションの売人だ。狡猾な手を使ってくるかもしれない。油断はするな」
 ローゲンが"油断はするな"と言ったと同時に、また昨日のように、皆の顔つきが引き締まった。ローゲンは椅子から立ち上がって数歩歩くと、それと、と付け足して立ち止まった。
「カルティーノ」
 そう呼ばれた男は、カルティーノ・マヴィルッタ 21歳。イタリアエージェントで、本部班に配属されている。カルティーノは、ん、と返事をすると、上目遣いで立ち上がったローゲンの背中を見ていた。
「美味いメシを頼むぞ」
 ローゲンは、先程の表情からは想像がつかないほど、子を見つめる父親のような、柔らかな笑みを漏らしながらそう言った。蝶子は、初めてみたローゲンの表情に、胸が締め付けられるようだった。
「任せなさい」
 カルティーノも瞼を伏せながら、笑みをこぼした。

 介入先であるロンドン郊外では、雨粒がエージェント達を濡らしていた。灰色の曇天を見つめながら、ウィリアム・アンダー 18歳は、ため息を漏らして「ちくしょー…降ってやがる。」と悪態をついた。
 足を進めるたびに水の音がぴちゃりぴちゃりと鼓膜を揺らし、雨に濡れた服は少なからずウィリアムを不快にさせた。いくらイギリス出身であるウィリアムであっても、雨が好きであるというわけではないらしい。ウィリアムは、神妙な面持ちで、水滴が流れる自分のブーツを眺めていた。

介入の一時間前、ローゲンはウィリアムを呼び出した。介入先がロンドン郊外のスラム街であったこと、それが今回彼がロンドンに呼ばれた一番の理由であった。
「ウィリアム…お前には一応報告しておくが、オークション会場で働いているのは殆ど、郊外のスラム街出身の奴らだ」
 その時にふとよぎった、自分を呼ぶ幼い声が、ウィリアムはずっと頭の中に残っていた。
「まさか、な…」
 ブーツを暫く見つめていると、フランスエージェントである、フランシス・ボシュアーノ 29歳が、
「どうかしましたか?ウィリアム」と声をかける。
「あぁ、なんでもないです。行きましょう」
 目に力を入れてウィリアムは答えたのだった。


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