07


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 レイチェル達を乗せた輸送機が後数十分すれば着くという距離に来た頃、別件で介入に出たローゲンからの無線が入る。
『こちらローゲン。本部が何者かに襲撃されている。先程、ガブリエルが負傷したとの連絡が入った。そちらの輸送機の基地への到着予定時間を教えてくれ。』
 無線の内容を聞いて、輸送機の中の者に緊張が走る。
「こちらガンダル。あと数十分で基地に到着する予定だ。」
『了解。到着し次第、侵入者を殲滅し情報収集のために一人は捕虜として拘束するように。』
「了解。」
 ガンダルは無線が終わると、顔つきを鋭くした。
「…どういうことなんだ…」
 ガンダルは片手で顔を覆いながら独り言のように呟く。基地への襲撃は、佐藤あいかの事件から二例目となる。
「また、基地の情報が漏れたんですかね」
「しかも、前線班と前線援護班が出払ってるこのタイミングで?」
「到着するまで、皆が無事であればいいんだが…」
 ガンダルを初め、輸送機に乗ったエージェント全員が顔を顰めながら貧乏揺すりをして、もどかしさを落ち着けていた。
 ガンダル達が乗った輸送機が基地に到着した。見覚えの無い戦闘ヘリが屋上に停まっている。そのヘリに着いた紋章に、ガンダルは見覚えがあった。―ローゲンが復讐した筈のテロ組織だ。ガンダルは皆が隠れているというシェルターに向かった。
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「すまない!遅くなった!!」
 シェルターを破った四人を殺して声を掛けるが、手遅れだった。既に、一人が引いた引き金によって、ガブリエルの頭は赤い花が開くが如く炸裂していた。それを見つめるマキュールは最早感情のない人形のように、生気が感じられない。急いでスティークを呼び、能力を使わせたが、もう手遅れであることは分かっていた。ガンダルは強く拳を握り、やり場のない怒りを転がる侵入者の死体にぶつける。抵抗しない亡骸は、蹴られるだけで数メートル吹き飛ばされた。
「ガンダルさん、落ち着いて下さい」
 カーンが悲しげな顔で宥めるように言った。
『こちらジョン。侵入者の一人を拘束しました』
「分かった・・・逃がすなよ、絶対に」
 その口調は、憤懣に満ちた厳かなものだった。

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 スティークは、息を吹き返すはずもないガブリエルの死体に必死に能力を注いでいた。スティークの能力は、息のある人間にしか使えない。患部は元に戻っても、どうしても生き返らせることは出来ない。超能力であっても、生命と時間軸における禁忌を犯すことは許されはしない。スティークはただひたすら、生き返ることのないガブリエルに能力を使い続けている。
「もうやめろ、やめてくれ、スティーク…」
 ガンダルが悲痛な面持ちで訴えかける。スティークはようやく止めた。顔をあげたスティークは、自分の無力さに憤りを感じて自分を追い詰めている表情だった。

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 レイチェルは無気力なマキュールを抱えて、マキュールの自室へと向っていた。最中、ずっとマキュールはぼそぼそと呟いている。レイチェルは恐ろしかった。目の前で仲間の頭が吹き飛ばされたたショックが、どこまで大きいのだろうかと、ただ自分には想像できないほどのことがたった数分前に起こったのだ。つくづく、平和とは何かを思い知らされる。マキュールの指に指輪が嵌められていることに気付いたレイチェルは、さらに顔を歪めた。先日まで彼女は、そのようなものは身につけていなかった。となればつい先程ガブリエルが死ぬ間際に
彼女に渡したにことになる。
「惨すぎる…惨すぎる…!」
 単なる仲間ではなく、愛する人が目の前で無残な姿に変わる瞬間を見たマキュールが、おかしくならない訳ながない。レイチェルはきつく唇を噛み締めた。


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