04

 レイチェルがUN-0で働き始めて四年程が過ぎ、レイチェルは既に二十五歳になった。彼女は結局この四年の間、スティークに姉の事を何一つ聞くでもなく、ただ介入に明け暮れる毎日を過ごしていた。
 基地内は賑やかだ。蝶子の周りは特に年齢が若い者同士で楽しげに話しているし、年長者のエージェントもガンダルを中心として溌剌としていた。彼らはレイチェルに、いつと真新しい不思議な勇気を与えてくれる。同時に、彼らの目標、生き甲斐への曲がる事なき信念が不安を与えた。畏敬の念というべきであろうか、とにかくレイチェルにとっては、その真っ直ぐな志しが、未だに姉の事を引き摺る自分に刺さるようで恐ろしかったのだ。

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 レイチェルはソマリアへと介入していた。武器商人から大量の武器を買ったとされる武装集団への制裁を加えるため、武器を略奪するという任務だった。武器略奪後、却って武装集団が凶暴化したが、前線班の獅子奮迅の活躍で事も大きくならずに収束した。
「にしても、治安の悪さは一向に良くなる気配はないな。テロ集団も何処にいるか分からない。俺らも油断してたらまずいかもしれないぞ」
 介入後、エージェント一行は能力で感知・追尾することの出来ない輸送機で基地へと戻っていた。輸送機の窓は、砂埃がついて視界が悪くなっていた。レイチェルは白っぽくなった窓から介入先であった大陸を見下ろした。砂漠の広がる地域に点々と見える軍事施設が、未だに安定しない発展途上国の混乱を物語っている。
「レイチェル、その腕――」
 そうレイチェルの右肘の少し上あたりから、血が滲んでいた。ローゲンはその患部を指差しながそのか傷ができた経緯を訪ねた。
「ああ、これは、流れ弾に当たって…今度からは長袖着てこないとですね」
 冗談めいた口調で、露手されている肩から下を見た。レイチェルは普段から、黒のタンクトップに緩めのスキニーパンツを履いていた。今回ばかりはその軽装が祟ったのか、露出している肌を派手に怪我してしまった。
「どれ、みせてみろ」
 スティークは、怪我した患部をジッと見つめて手を翳した。暫くすると湯気のようなものが烟り、直ぐに傷が跡一つ残ることなく消えてしまった。
「あの、スティークさんって…」
「レイチェルは知らなかったか。スティークは傷を治癒させる能力を持ってる。神経が切れてたって、ちょっとばかし内臓がはみ出たって、バッチリ治るぞ」
 ガンダルは軽い口調で言う。
「実際、俺の左腕が吹っ飛んだ時も治してもらいましたよ。特殊部隊上りの奴らとの戦闘では、スティークさんがいなければ俺達今頃、屍になって砂に埋もれてるはずです」
 ジョンは笑い話のように語るが、それはスティークがいて命が助かったからこそだ。腕を吹っ飛ばされたことが武勇伝であるかのように喜々として語るジョンの若さに、少しだけ苦笑した。その危なっかしさはきっと、ガンダルやローゲン、スティークの年長者によってカバーされている。レイチェルは、先程の傷のあった場所を触る。痛みもない、本当に怪我したのかさえも不思議なくらいに元に戻っている。
「スティークさんの能力はすごいですね。人の命を救えるなんて…」
「……今はそうかもしれないが、救えなかったことの方が多い」
 そう吐露するように悲痛な面持ちでスティークは答える。
 ―その隠された片眼に、何を映しているのだろうか。


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