02

 あの時から約九年間、レイチェルは姉への罪悪感に苛まれていた。仲直りする前に亡くなってしまった姉が、自分を許してくれるのだろうか、と。姉が幸せに生きるはずだったのに、私が幸せに生きていていいのだろうか、と。レイチェルは姉の死後、体に異変が起きた。手に持っていた物が別の場所に移動するようになったのである。奇妙な現象に気付かないふりをしながら、レイチェルは大学生活を送っていた。いつものように大学へ顔を出し、研究室へと向かっていた。すると、大きな影が自分の影を覆ったのである。思わず顔を上げ振り返ると、
「よっ」
 地中海系で顔の彫りが深い褐色の男が、開けたピアスをチャリンと鳴らし、軽々しい口調で手を挙げ声をかけてきた。
「お前、レイチェル・グランドファーだろ?自分に能力があるのは自覚しているか?」
「なんでそんなこと…」
「俺も、そして俺が所属している場所も、お前と同じようなもんだ。お前は自分の姉のことを知る義務がある。どんな人物だったのか、何が好きだったのか…お前は知るべきなんだ、レイチェル。そして、お前の道を進むんだ」
 レイチェルは、この怪しい目の前の男の話に聞き入っていた。―目の前の男について行ったとしたら、姉に許してもらえるような人間になれるのだろうか?
「ああ、忘れてた。俺はガンダル・シャバスクヤ。さあ、どうする?お前次第だ。好きなようにするといい」
 ガンダルという男は、後ろ髪を書きながら口角を上げつつそう言った。一見すると怪しい人間でしかないが、レイチェルの本能はこう感じていた。
―この人は、真実を言っている。
決心したようにゴクリと唾を飲み込んでから彼の手をとったこの時、レイチェルの運命の歯車が徐々に徐々に加速していった。


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