01

「こちら漣蝶子、応答願います」
 ざわめく桜の中で、凛とした声が通る。
『こちら司令部』
「任務完了しました」
 そう淡々と告げた女――漣蝶子は、UN-0と呼ばれる国連の裏組織に所属している。この組織は、国連が表立って介入することのできない、テロ、紛争、国家間での緊張などに介入する組織である。このUN-0では、一般的に超能力者と呼ばれる人間が、国家で一人、エージェントとして駆り出される。エージェントに選出されるには沢山の試練を乗り越える必要があり、蝶子はその試練を耐え抜いた一人である。このエージェントには掟があり、1.超能力を持った者、2.各国一人ずつ選出する、3.一生を遂げるまで、または新しいエージェントが選出されるまで辞めることはできない、4.エージェントが死亡または再起不能になった場合、セカンドエージェントから一人選出する、5.成功報酬はない、6.裏切り、または任務放棄をしてはならない、7.母国への介入であっても正当に行動しなければならない。8.UN-0の名を公言してはならない。エージェントとして選ばれるものは、以上の条件を守らなければならない。18歳以上のものがエージェントとして選出される。そうして、やっと18歳になった蝶子は選出されたのだった。
「おっ!」
 明るい声が、長く伸びる廊下に響き渡った。
「蝶子、おかえり!」
 蝶子に声をかけた女、マキュール・アンドリュー24歳。彼女はカナダのエージェントである。マキュールの声に驚いた蝶子は、肩をびくつかせながら振り返った。
「マキュールさん…ただいま」
 蝶子とマキュールは6つも年が違うが、同じ女性のエージェントということもあり、姉妹のように仲がいい。最初は英語でのコミュニケーションが苦手だった蝶子も、明るく気さくなマキュールと出会い、最近では、会話に特に大きな隔たりがなくなってきた。
「最近介入多いみたいだけど、蝶子、身体大丈夫?」
「はい、心配されるほどではありませんよ」
 平穏な会話を交わす彼女達だが、エージェントに成るための項目をすべてクリアした者たちである。家族と己と邪心を捨てられる勇気があり、たとえ相手がどのようなものでも臆することなく、正統な考えを持ち行動できるもの。そうして、自分たちの存在を示すことの出来ないまま、死んでゆくリスクを背負って介入する者たちである。
「ねぇ蝶子。ご飯まだでしょ?」
「はい…」
 そろそろ空き始めるお腹を少しさすりながら、蝶子は静かに頷いた。
「じゃあ、私が奢ろうか?」
 本当ですか?、と返事をしようとした時に、タイミングを見計らったかのように無線が流れる。
『明日の介入の作戦会議を行う。皆至急集まるように』
「…行こっか」
「…はい」
 彼女達の食事はだいぶ遅れそうだ。


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