02

「ガンダルさん、随分と夜更かしですね」
「今、介入から帰ってきたんだよ。夜中なのにここの灯りがついてたから見てみたら、お前が無茶苦茶に鍛えてるから、止めてやろうと思ってよ」
 時計は一を指している。こんな時間に一人でがむしゃらに鍛えていたら、ガンダルでなくとも止めたくなるだろう。しかし、その優しさはルイにとって迷惑だった。
「…まぁ多方、お前故郷の事なんだろうが」
 ルイは手を止め起き上がると、近寄って屈んだガンダルに顔を向けた。ルイは黙ったまま、ガンダルの次の言葉を待った。
「俺の介入先が、お前んとこの民族紛争だったんだけどよ、土地や利権のことを俺らが仲介して話し合うことであっさり終わった。何年間も紛争状態だったのが不思議なくらい…まあ、民族の代表者がどっちも温厚だったのが救いだったって感じだが」
「…」
「…ルイ。行くか?彼女の墓に」
 ルイは、もう光を見る事が出来ない眼に手をそっとあてた。そうして、静かに頷いた。

  **
 銃撃された翌日、ルイは真っ暗な世界で目が覚める。最初は夜なのかと思った。だが、暗さに慣れれば次第に見えてくるものが見えないことに不自然さを覚えた。周りには話し声も聞こえる。パタパタとスリッパのようなものが立てる音も聞こえる。それなのに光のない視界に、ルイは底知れない恐怖と孤独に苛まれていた。直ぐに自分の名を呼ぶ両親の声が横で聞こえ、そこでやっと悟った。
(…俺、目が見えなくなったのか)
 自分が起きた事でバタバタと忙しなくなった周囲の雑音など、ルイの耳には入らなかったが、そのうちルイの両親が重々しい口調で話し始めた彼女の訃報は、はっきりのルイの耳に届き、突き刺した。
 ルイは絶望し、暫くは無気力なままベッドに横たわる生活を続けた。

  **

 ある静かな夜、一人部屋であるルイの病室の窓ガラスが、不自然な程突然音を立て始めた。最初はただの風だと思ったものの、ガチャリ、と聞こえた窓の鍵音に焦りを感じた。視ることの出来なくなったルイにとって、得体のしれない物音は恐怖そのものだった。ルイの心臓は激しく脈を打つ―。
「怖がらなくていい。俺はガンダル・シャバスクヤ。UN-0っていう超能力者の集まりがあって、お前をそれにスカウトしにきたわけよ」
「俺が、超能力者…?」
「…そうか。お前、目が見えなくなってるんだったな。ちょっと自分の右手で左腕を握ってみろ」
 怪しい男が現れたことに困惑しつつも、ルイは男に従う。
「――お前が一番辛かった時のことや、一番腹立たしいと感じた事を思い出してみろ」
 ルイの手には自然と力が入る。彼女を失い、視界さえも失った自分への惨めさ、強い絶望感、込み上げてくる負の感情―。
「っ!!冷たっ・・・」
 途端に感じた左腕に走る凍ったような冷たさが刺すような痛みに、ルイは声をあげて驚いた。
「それが、お前の力だ。お前はその負の感情をコントロールさえ出来れば、お前は強い男になる。お前の守れなかった命も、変えられなかった対立も、きっとこれから先に繋げていける。負の連鎖を断ち切っていける。お前にその勇気があるのなら」
 ルイは、見えないながらに感じたのである。…―目の前の男がどれほどまでに器のある男であるのかを。ルイは無意識に息を呑む。
「来い。強くなって変えてやれ。この世界を!」
 ルイには眩い光が見えた。そして、その光に近づきたいと思った。

  **

 ルイは、彼女の墓の前で追憶していた。
 全てが懐かしかった。思い出すだけで、ルイの心は張り裂ける思いだった。ルイは彼女の墓に両手を置き、そっと慈しむように撫でる。そしてふっと微笑んだ。
「ガンダルさん、目標をなくした今、俺が強くなったのかどうか、測る物差しがなくなってしまいましたよ」
「お前は十分強いよ」
「分からない…具体的にどう強くなったのか」
「過去を受け入れられるようになったところとか…ああもう、面倒くせぇな、お前が他の誰かが好きになった時、本当に強くなった証拠だ」
 ガンダルは後ろ髪を掻きながら言った。
 今のルイにはこのガンダルの言葉の意味は分からないが、帰るぞ、と静かにいうガンダルが本当に強い男であることは理解できた―。


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