06

 ローゲンがエージェントになってからというもの、未だに復讐と火を燃やすような鋭い眼差しであった。復讐の強い意志、そして何より二つ授かった能力、圧倒的なポテンシャルで、瞬く間に強くなっていった。
(俺の力は、復讐のためにある―運命は復讐のための道標を敷いている…!)
 ローゲンは強く信じていた。

  **

 ローゲンは、エージェントとなって現在に至る十数年間、テロ組織への復讐のために動いていた。しかし、もうローゲンの目的は果たされたのである。ローゲンは考えていた。これから先生きるための目標を。
「おい、ローゲン。お前は、エージェントになってよかったと思うか」
「ああ。現に、こうして仇をとることができた。思い残すことは…」
 その時によぎる、仲間の顔。
「――お前は嘘つきだよ、ローゲン。お前の贖罪は、大切な人を守ることだ。今のお前には沢山の仲間がいて、守るべきものは多く大きいはずだ。それなのに、思い残すことはない?冗談じゃねぇぞ。お前の奥さんや子供だって、復讐は望んでなかったのかもしれねぇのに、勝手に使命感にとらわれて人の命を奪って」
 そこまで言ってガンダルは止めた。目の前に蝶子が現れたからである。蝶子が申し訳なさそうに頭を軽く下げると、
「お邪魔してしまって、申し訳ありません」
 踵を返そうとした時、ガンダルは蝶子を呼び止めた。
「ちょっと、こいつの側にいてやってくれ。じゃ!俺はトイレ行ってくるから」
片手をひらひらと振ってガンダルは行ってしまった。蝶子は突然のことに驚きながら、ローゲンを見る。見たことのない、切なげな表情だった。
「あの…どうか、されましたか?」
「…いや、気にするな」
 これ以上何も言うな、聞くな、そう言われている気がした蝶子は、「それじゃあ、失礼しますね」と小さく断ってから場を離れようとした。
「いや、いい。ここに居てくれ」
 途端に腕を掴まれた蝶子は、驚きながらも素直に従った。ローゲンは近くのベンチに腰掛け、列をなす蟻を見ながら佇んでいた。蝶子はその二十センチほど間をあけて隣に浅く腰掛けた。ローゲンも蝶子も、お互いに何も言わず、ただ座っているだけだった。二人の上には、紫がかる空ほぼやっとした半月が浮かんでいた。辺りは静かで、遠くから車の音が微かに聞こえてきていた。

  **

「おう、カルティーノじゃねぇか」
「ガンダルさん、無事でしたか」
 カルティーノは任務を終え、一人、故郷であるこの街を歩いていた。舗装されていないガタガタな煉瓦造りの道路や、狭い路地、懐かしさに目を細めて立ち止まっていたところ、ローゲンと蝶子を置いてきたガンダルと遭遇した。
「ローゲンさんは、無事ですか?」
「まあな。今、蝶子ちゃんと二人きりにしてるのさ」
「何故?」
「いや、お似合いだと思ってさ。二人にしておいてやろうかなって」
 このガンダルの答えは、半分真実で半分嘘だった。確かにお似合いだと思うが、それだけではない。―ローゲンの妻だった絵理子と、蝶子は酷似しているのだ。ローゲンがこの先自分の道を切り開き、さらに強さを手に入れるには蝶子の力が必要になることを、ガンダルは分かっていた。


prev / しおりを挟む / next

back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -