05
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ガンダルはおよそ十年前のローゲンの姿を思い出していた。―憎しみの満ち、濁った色を孕んだ瞳。ガンダルは、今となっては懐かしいその荒んだ姿に、ふっと笑う。
「…いや。今でも憎いか?」
「…」
ローゲンは何も答えなかった。答えられなかった。明確な答えを探せなかったからである。
「テロ組織の奴らもまた、社会が生み出した被害者でしかない。って一言で片付けると、この世に悪はないってことになるが――洗脳されて、自分の命を犠牲にするあいつらが、全てが悪だと思うか?」
ローゲンは終始無言だった。
「なあ、ローゲン」
「…なんだ、ガンダルさん」
「何で、能力を持ったのが俺らだったのかねぇ」
「…さあな」
ローゲンとガンダルの二人は、遠く遥か先を見ているかのようだった。そう、もう終わったのだ。ローゲンの復讐は終わったのだ。
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ローゲンが妻子の死を知ったその日、涙が枯れるほど泣いた。同時に身体を金属に変えられるようになった。ローゲンは自分の身に起こる変化に戸惑い、恐怖を感じていた。
暫くして、ローゲンのもとに一人の男が現れる。
「よぉ」
この男こそがガンダルである。
「誰だ」
「俺は、ガンダル・シャバスクヤ。お前をスカウトに来たんだよ」
「スカウト?」
「単刀直入に言おう。お前は超能力者だ。その能力を、世界のために使わないか?」
「世界のため…」
「なあ、ローゲン。お前は強くなるよ。今度は絶対に愛する人を守るんだよ、命に変えてもな。それがお前の贖罪であり宿命だ」
救えなかったシヴァンと絵理子の顔が、ローゲンの頭によぎる。―愛する家族を、守りたい。
「来い、ローゲン」
ローゲンは手を引かれるままに、エージェントへとなったのであった。
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