04

 ――三十五年前の冬、ドイツの酪農家で一人の男の子が生まれた。ローゲンと名付けられた彼は、厳格な父と、芯の通った穏やかな母に育てられ、どんどん立派になっていった。

 ローゲンが十五歳の時、彼の家にホームステイにきた日本人の女の子に恋をした。絵理子という女の子だった。一ヶ月のホームステイを終えた彼女が帰る時、ローゲンは彼女に手紙を渡した。『好きだ』と描いた手紙だった。英語が堪能なローゲンと絵理子は、ドイツ語ではなく英語で話していたので、絵理子はその手紙を読むのに時間がかかった。暫くして届いた手紙には、『はい、喜んで』とドイツ語で返事が書かれていた。
 ―これが、二人の馴れ初め。

 ローゲンが二十三歳の時に、二人は結婚した。翌年には男の子が生まれた。その子は『シヴァン』と名付けられた。ローゲンは世界でも一流の企業で働き、妻の絵理子はそれを支えていた。三人はドイツで幸せに暮らしていた。
「ねえ、あなた」
「どうした」
「今度友人がイタリアで挙式を挙げるので、シヴァンも連れていこうと思うんですけど、どう思います?」
 ローゲンは、まだ一歳に満たないシヴァンを飛行機に乗せることに躊躇いがちだったが、絵理子の楽しみそうな表情を見て、「いいんじゃないか?」と微笑んで返事をした。生憎ローゲンは仕事で大きなプロジェクトを任されていて、休むことが出来なかったので、妻の絵理子とシヴァンだけでイタリアへと向かう事になった。

 ―そうして、悲劇は起こる。

  **

 ローゲンは会社に居た。少しばかりの休憩時間を貰い、香りのない安い缶コーヒーを啜って社内のテレビを見ていた。たまたまついていたチャンネルがニュースだったので見ていたが、パッと目を引くこれといった話題がなかったため、チャンネルを変えようとした時、
『今日の午後2時、ローマ・フィウミチーノ空港行きの飛行機が、過激派のテロ組織の自爆テロにより、墜落しました」
「!?」
 ローゲンは慌てて機体名を確認した。
(―妻が乗っていた機体だ)
 ローゲンの体は重くなるばかりだった。


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