03

 カルティーノの力は、残酷というに相応しい。カルティーノが憎悪を込めて歌を歌っても、歌と思い出を共有した人物でないと命を奪う事は出来ない。―つまり、比較的親しい人物でないと命を奪えない。あの時母親が死んだのは、歌と沢山の思い出を共有した血縁者だったからだ。カルティーノのこの能力は、同士討ちのために在るようなものだったのだ。カルティーノ自身はこの特殊な能力には気付いていない。ただ、『あの時以来、自分の歌で人が死ぬことはなかった』、とだけ胸を撫で下ろしている。カルティーノは残酷な能力に縛られた青年だった。

  **

 いつの間にか少女は眠っていた。カルティーノはその寝顔に、幼い頃の自分を重ねる。弱々しくて、今にも壊れそうな純粋さ。母親を慕う無邪気さ。自嘲的に鼻で笑う。
「カルティーノ、その子の母親は無事だった。他の者へのカウンセリングを頼む」
「りょうかーい」
 少女の母親の手当が終わったスティークはかカルティーノにそう促す。カルティーノは眠っている少女を母親の場所へと抱え渡すと、他の被害者の元へと向かった。
 カルティーノが精神的なダメージが重症そうな被害者をみつけようとしていた時、蝶子が赤ん坊を抱いてあやしている様子が目に入った。
「やあ、蝶子。その子はどうかしたのかな」
「どうやらこの子供の母親は爆発に巻き込まれて亡くなったと思われます」
「そっか…」
「よければ、カルティーノさん。この子に歌を歌ってあげてください。さっきから泣いてばっかりなんです。きっと、母親の温もりが消えた事に不安を感じてるのだと思います…」
 カルティーノは無言で頷いて、赤ん坊を抱っこしながや優しく歌を歌った。すると、赤ん坊は途端に大人しくなった。
「やっぱり凄いですね…もう安心しきってますよ、その赤ちゃん」
「はは、歌うだけなんだけどね」
「それでも、人を安心させることは充分すごいことです。…よかったら、私にも聞かせて下さい」
「…うん、いいよ」
 カルティーノは、蝶子に歌を歌った。蝶子と歌と思い出を共有する、それは命を奪うのではなく、優しさを育むことだと信じて。

  **

 ローゲンとガンダルの二人は、イタリア本国から離れてテロ組織の潜伏している場所へと向かっていた。ローゲンは眉を顰めながら先へと進む。
「おい、ローゲン。―そんなに力むなよ」
 ガンダルはつけているピアスはちゃりちゃりと音を鳴らし、うすら笑いでそう言った。
「…ああ」


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