01

 結局、蝶子が軽傷を負った程度で襲撃事件は幕を閉じ、佐藤あいかの父親への補償が約束され、佐藤あいかには厳重注意に加え三ヶ月間の謹慎処分が与えられる事となった。このような軽い処分で済んだのも、ローゲンの手回しのお陰なのだという。
 ―そして、蝶子はというと…。
「いやー!こりゃいいわ!」
 柔らかな空気に戻った基地内に、マキュールの高い声が響く。
「可愛いよ、蝶子!」
 蝶子は、襲撃事件で歪になった髪型を揃えるために、セミロングからショートへと髪型をかえた。その様子にマキュールはきゃっきゃとはしゃぎ褒めている。
「ありがとうございます」
 蝶子は照れくさそうに顔を伏せ気味にして、頬をほんのりと染めていた。短く切ったのはおよそ二年ぶりで、慣れない軽さに戸惑い半分、気持ちの切り替えが出来ることに心地よさを感じていた。
「ねっ、ローゲンさんもそう思うでしょう?」
 マキュールは喜々としてローゲンに訊ねる。蝶子は思わずえっ、と声を出してしまいそうなる。
「ああ、そうだな」
「あ、ありがとうございます…」
 蝶子は、顔には出さないが、心では飛び跳ねるような嬉しさを感じていた。仄かに頬を染め、緩みそうな口に力を入れていた。
『―あなた―・・・』
 ローゲンは、脳裏に浮かぶ映像を押し殺すように目を伏せる。その時、『こちら司令部。ローゲン、聞こえるか』という司令部からの無線が入った。
「こちらローゲン。聞こえている、用件をどうぞ」
 ローゲンの近くにいた蝶子もマキュールも、ローゲンの無線の会話を聞いて、これから介入に入ることを知る。二人の意識は自然と介入へと向かい引き締まっている。
『イタリア北部の駅でテロ発生。至急、ウィリアム、ローゲン、ガンダル、スティーク、ガブリエル、蝶子、カルティーノで任務にあたってくれ』
『了解』
 ローゲンは無線を切るとすぐに一つのタブレットを取り出す。このタブレットはUN-0専用の作戦、情報伝達用の機器で通称ITE001、インドエージェントのカーン・ベラネナイ 三十歳の能力を使い、絶対にハッキングされることのないようにしている、携帯ほどの電子機器だ。この機器をローゲン意外が扱う事は許されていない。ローゲンはITE001で送られた作戦を確認すると、ギラリと目つきを変えた。ローゲンは静かにITE001をしまうと、先程無線で指名されたエージェントを呼び出した―。

  **

 一行はイタリアに着いていた。テロの起きた駅はそれなりに人が多く乗る駅で、被害の規模はかなり大きかった。このテロ組織は、10年ほど前に起きたテロの、組織の残党と言われている。
「ひでぇ有様だな」
 ウィリアムは、目の前の現実を揶揄するように吐き捨てた。エージェントの前に広がる光景は、泣き叫ぶ血に濡れた子供、体の一部が吹き飛んだ無残な死体、瓦礫の下敷きになって辛うじて見える手足。
「ウィリアムは消火にあたれ。スティークと蝶子は負傷者の手当、カルティーノは負傷者の心理セラピー、ガブリエルは能力を見た人物の記憶をできる限り書き換えてくれ。俺とガンダルさんは、テロ組織の壊滅にあたる。」
 最後の一言に力がこもっていた。


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