03

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 ―UN-0基地では、緊張が張り詰めていた。エージェント達は、蝶子へ脅迫文を送った人物の迎撃態勢をとっていた。
「基地周辺の距離を操るとともに、侵入者追尾ができるようにしました」
 フランシスは、ブロンドの艶に済んだライトブルーを覗かせながら淡々と告げた。彼は距離を操る能力を持っている。コンマ数秒のうちに操り最長300キロメートル操る。厳密には距離を伸縮させるのではなく、ある地点Aからフランシスがいる地点PのAP間の距離の間に、一時的に働くパラレルワールド、すなわち並行世界を置くことで、その中に入り込んだ人物にAからPまでの距離に変動が起こったと錯覚させる。加えてフランシスは、並行世界内に入り込んだ人物の感知をすることができ、地点Pに着く間ずっと追跡することができる。しかし、置いた並行世界内の距離は設置後変更することができないため、持続的にP地点まで来ようとする人物を遠ざけておくことはできない。
「ご苦労」
 ローゲンは横に立つフランシスに横目でそう言った。
「ですが、ローゲンさん。何故、蝶子に脅迫文を出した人物が今日来ることが分かったんですか?」
 フランシスは不思議に思っていたことを口にする。
「この犯人は、セカンドエージェントだ、と言う事は伝えたのは覚えているな?」
「ええ」
「セカンドエージェントは、養成所で毎日訓練を積んでいる。しかし、月に一度だけ外出が許される日がある…」
「その日が、今日って事ですか」
 フランシスは察しが早い。
「ああ」
「よっしゃ、いつでも来いや!」
 エージェント達一人ひとりがピリピリと殺気立っている中、マキュール、ウィリアム、カルティーノの三人組は、子供がゲームで中ボスと戦うとでも言うようにはしゃいでいるように見える。
「来るまで気が抜けねえし…本当に人騒がせだよなあ」
 ウィリアムは嘆息しながらそう言った。ローゲンはいつものようにその三馬鹿の様子を眺めている。察しの良いフランシスは直ぐに気付く―ローゲンさんは、表情にこそ出さないが、人一倍殺気立っている…。隣に立つフランシスでさえも蹴落されそうな、潜在的な殺気を、三人の様子を見ることで抑えつけようとしている。
(基地への侵入は先例がないからか、それとも―)
 フランシスは、蝶子へと目を向けた。蝶子はやはり心なしか強ばった顔つきで、羽織りを抱くようにして座っている。
(彼女だからか―)
 フランシスがそう考えた時、自分の張った仕掛けに侵入した人物を感じた。
「南方より、接近中!」
 フランシスは反射的に声を上げた。それを聞いたウィリアムは、ポツリとボヤく。
「噂をすれば、ってやつ?」


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