01

 ―とある日の、UN-0にて。
「なんで今日は、ロンショウと俺だけが留守番なんだよ」
 ウィリアムは、アールグレイの香りに包まれたカップを置いて、溜め息を漏らすようにそう言った。外の天気はどんよりとした灰色の雲が覆っていて、ウィリアムの気分さえもどんよりとさせていた。
「不謹慎ネ。介入はいい事じゃない。人の命を奪う仕事ヨ?」
ロンショウは、そんなウィリアムを尻目に、中国訛りの英語で言う。
「そうだけどさぁ…俺もローゲンさんみたいに強くて頼りになれば、任務も沢山任されるんだろうな…」
「そうネ」
「ジョンさんも父さんみたいだっ言ってたし…まぁでも、あんな父さんがいたらいいよなぁ」
「…そうネ」

  **

 ロンショウの能力は、左目を開けてから三時間はイメージした人物に変身できるというもの。一度使ってから一日置かないとまた使えないのが難点だが、潜入捜査でかなり役に立つ能力だ。この能力は、ロンショウが物心ついた時に既に備わっていたものだった。
「ねぇ、アナタ。あの子の変な力、不気味じゃない?」
「仕方ない…一人っ子政策さえなければなぁ」
 ロンショウが夜な夜なトイレに起きた時、リビングから聞こえてきた両親の会話。
 ―いくら他の人に気味悪がられようと、たった一つ、信じていたもの。
 ―両親は自分を愛してくれると、そう信じていた。
(自分は、必要とされてない…父さん達にも…)
 心無い大人の言葉は、ロンショウの心を凍りつかせるのには充分だった。信じていたものから裏切られる絶望感を、まだ七歳のロンショウは味わったのである。

 ―ロンショウは、この時以来、自分には何も無いと思い込んでいた。この能力で、両親からの愛ももらえず、学校ではいじめられ、自分には何一つないと思い込んでいた。だから、彼は羨ましかった。普通に暮らしている幸せな同年代が、平凡と言う名の幸せに気付かぬ、そんな彼らが。
 ロンショウは、遠目から同じ年の子供が楽しそうに遊ぶ様子を、いつも切な気な羨望の眼差しで見ていた。
「ロンショウ君!」
 突然後ろから呼ばれたことと、自分の名前を呼んで来る人がいたこととに驚きながら振り向く。そこには、大物政治家を父に持つ、同じクラスの男の子がいた。
「あれ、分かるかな?同じクラスのチャン・シャーマオだよ」
「ああ、知ってる。政治家の息子だろ?」
「やめてくれよ、それは僕の名誉じゃない。僕は僕、父は父だ」
「で、我に何の用?」
「…友達になりに来た」
 シャーマオははにかみながら、そう言った。この時のロンショウは、とても―…。
「なんで、我なんかと…一緒に居たら嫌われるだけだ」
「そんなの知ったことか。君は宇宙人でも怪物でもない、人間から生まれた立派な人間じゃないか。僕は、君と仲良くなりたいんだ!君と仲良くなって、僕を嫌う奴なんて気にしない」
「っ!」
「ね?ロンショウ君、友達になって下さい」
 ロンショウはこの時、嬉しさを隠しきれずに、涙を流した。自分を必要としてくれる人が今までいなかったから、温かく名前を呼んでくれる人はいなかったから、自分をしっかり見てくれる人がちゃんと存在したとを知ったから―。

 それでもロンショウは、裏切られた時のことを考えて、完全には信じないようにしていた。それでもシャーマオは、笑って話しかけ続けた。
――いつしか、ロンショウは心を許していた。シャーマオの笑顔は凍りついたロンショウの心を温め、溶かしていた。


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