03

 ――ロサンゼルスの、細い路地裏。
「いいのか、せっかくの誕生日なのにこんなトコで…」
 幼いジョンと、親友の少年スコットがいた。スコットは両親が共働きで、一人っ子の裕福な家庭の少年だった。スコットは今日が誕生日で、ジョンと二人、この場所に来ていた。
「どうせ家にいても誰もいないし、お前といた方がマシだよ」
「なんだよ、マシって」
 ジョンとスコットはお互いに一人っ子だったのもあり、兄弟のように仲が良かった。
薄暗い路地裏で、先程買ってきたパウンドケーキを二人で頬張りながら、いつもと同じように世間話をしていた。足音が不意に聞こえて振り返ると、黒のタンクトップを身に付けたスキンヘッドの男がいた。露出された肌には傷やタトゥーがおびただしいほどあった。
「おいガキ…ここは俺の寝床だ何してやがる」
 ジョンとスコットは慌てて路地を見渡した。見つけた。最近ここらで暴れている、カラーギャングのシンボルマークが壁にペイントしてあった。ジョンとスコットは戦慄した。足の重さに気づくより先に、男の出で立ちが目に入った。そして二人は思う――『死ぬ』。
「ごっ、ごっ、めんなさい、すぐに立ち去るので許して下さい!」
 ジョンは声を絞り出して、スコットの腕を掴みながら懇願した。男は黙ったままだった。不安になったジョンは男を見やる。男の肩にはバフォメットのタトゥーがあった。暗闇で、その悪魔のタトゥーと男の不敵な笑みが、物々しく存在していた。
「許すわけねぇだろぅが」
 そう言った途端に鈍い音が聞こえた。バキッと、折れる音が聞こえた。スコットが殴られて、目の前で倒れた。鼻と口から出血していたので、鼻と歯が折れている可能性があった。ジョンは倒れたスコットに声をかけた。男はすかさずスコットの髪の毛を引っ張って持ち上げると、首にサバイバルナイフを突きつけて「おいガキ、金を出したらこいつを放してやるよ」と脅し、ニヤつく。
「金は…もうない…」
 ジョンの金は、先程買ったパウンドケーキで使ってしまってもうなかった。震える声でそう言った。
「そうか、じゃあ仕方無いな!」
 男は気違いじみた表情で、声を張り上げてナイフを振り下ろした。
「やめろ!!!」

  **

 スコットの意識が戻ったとき、血だらけの男が目の前に倒れていた。
(助かったのか…でも、これは一体…?)
 ぼんやりとした視界の中で、ジョンを探した。ジョンは男を見下ろし立っていた。目に光はない。
「ジョン…?」
 悪い予感がしたが、スコットはジョンに声をかけた。ジョンは機械のようにこちらに向かって歩いてきた。
「おい、ジョン、どうしたんだよ?」

 ――細い路地裏に、鈍く重い、生臭い音がした。


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