05

 数日後、ホオジロの鳴き声を聞きながら、蝶子はマキュールの笑顔を横目で見ていた。
マキュールの父親ニックと、レイチェルが連れ帰った男は、国連によって裁かれることになった。彼らは、カナダ政府の与党にありながら虐殺を留めることが出来なかった事実と、UN-0という組織を知ってしまったことから、UN-0の職員として働くこととなった。そうして、生きることで亡くなった人々への贖罪を背負い、その生涯を平和に捧げることになった。
 こうしてカナダ政府への介入は幕を閉じ、マキュールの笑顔も戻った。蝶子は、頬を薄紅に染め柔らかに微笑むマキュールを見やった。その視線に気付いたマキュールは、そっと目を閉じて、そうしてまた開く。
「蝶子。…ありがとう」
 そういったマキュールの横顔は、朝の日差しに照らされ、赤みを帯びた頬も輝かせて、蝶子の目に反射した。
「いえ、お礼ならあの時わたし達に自由をくれたローゲンさんに…」
「殺さないでくれて、ありがとう。ダメな父親だけど…一応父親だから」
 蝶子は、何故か小さい虚しさを感じた。蝶子の父親は幼い頃に家を出て、母親が死ぬ時も帰っては来なかった。幼い時の父親の記憶しか蝶子にはなかった。だけれど、屑屑とマキュールが零す温かな家族という存在に、蝶子は羨ましさと微笑ましさを感じた。だから、自然と笑が溢れるのである。
「いえ…マキュールさんのお父さんは、いい人でしたから。命を奪おうとは思いませんでした」
「ま、色んな手続きしてくれたローゲンもいい人だけど!というか、ローゲンさんって、素敵だよね」
 目を細めながら、マキュールはにこりと笑う。
蝶子は、少しドキリとした。もしかしたからマキュールは、ローゲンのことが好きになったのかもしれないと、ドキリとした。
「な、なんですかいきなり」
「いやぁ?ローゲンさんにだったら、蝶子あげてもいっかなーって!」
 それを聞くと、蝶子は顔に熱が集まるの感じて、思わず俯いてしまった。




 蝶子達エージェントは常に死というものを目にし、一般の人より辛い経験を積む。そのような過酷な環境の中で、ほんの少しずつ、"幸せ"というものを知っていく。


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