01

 ウィリアムが涙を流した後、蝶子達は捕まって監禁されていた人々を開放し、任務を無事終わらせたのであった。

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「ったくウィリアム…お前はぁ…」
 任務を終えたエージェント達は、本部班が仮設した本部で昼食を採っていた。そんな中、本部班であるマキュールが一人物々しい形相でウィリアムに詰め寄っていた。
「蝶子と二人きりで任務だったんだって?聞いたわよ、レイチェルさんから!蝶子に変なことしてないでしょうね!?」
 ウィリアムは、キンキン耳に響くその声に眉を寄せながら、後に聞こえた、「正直に答えないと、殺す」という物騒な言葉に聞こえないふりをしていた。蝶子とウィリアムが二人で任務にあたっていたことをマキュールに教えた張本人――レイチェルは、昼食を頬張りながら二人のやりとりを見ていた。
「おい、レイチェル食い過ぎだぞ」
「黙ってて下さい、ガンダルさん」
 レイチェルとガンダルの会話を余所に、詰め寄ってきたマキュールに面倒臭さを感じているウィリアムは、「まぁその辺にしておけ」という一人の男の声に救われたのである。
 この男の名前は、ガブリエル・ガラティアンコ 28歳。日に焼けた褐色の肌に、彫りの深さと日によく当てられた暗めの茶色の髪が印象的な、ブラジルエージェントである。
「何よ、ガブリエル…」
「おいおい、俺は年上だぞ?敬語ぐらい使えよ」
「たった4つしか違わないじゃないの、えぇ?」
 ガブリエルの一言で完全にウィリアムのことを忘れたらしいマキュールから開放され、ウィリアムはそそくさとその場を後にした。暫くマキュールとガブリエルは言い争いをしていたが、マキュールの携帯に着信が掛かってきたため、マキュールは不服そうな顔をしてガブリエルを見ながら、「ちょっと電話してくる」と言い残して部屋を出て行った。
 ガブリエルはその様子を見届けながら、マキュールが着信相手を確認した時の表情に胸のつっかえを感じていた。

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「ったく畜生、変なのに捕まったぜ。アイツ、蝶子の前だと性格変えやがって…」
 マキュールから逃げてきたウィリアムは、愚痴を口に出しながら一人歩いていた。
『泣いていいんですよ、ウィリアムさん。』
 ウィリアムは、蝶子の言葉に、「なんでアイツはあの時泣いていたんだろう」という疑問を抱いていると、
「ウィリアムさん?」
と、背後からその張本人である蝶子の声が聞こえて、思わず肩を飛び上がらせて驚いてしまった。ゆっくりとウィリアムは振り返って彼女の姿を確認すると、どうした、と声をかけて応えた。
「任務とはいえ…あの様な事があった後なので、心配で」
「俺は平気だけどよ」
 自分の事を心配してくれていた事を知ったウィリアムは、照れ隠しと言わんばかりに頬を指で掻き、目をそらしながらそう言った。間をおかずに目線を蝶子に戻すと、彼女の頭に自分の掌をそっと置いた。突然の彼の行動に内心驚きの隠せない蝶子に、ウィリアムは「ありがとうな。」と、柔らかなテノールで告げた。
「他人の俺の為に涙を流してくれたり…色々と感謝してる」
『蝶子、マキュール、ロンショウ、レイチェル、ガブリエルは、明日の介入について話がある。至急集まるように』
 最後の方が消えそうな音でウィリアムが口にした時、ローゲンからの連絡が無線に入ってくる。
「では…失礼しますね」
 蝶子は身につけた着物の、振袖のように長く垂れる袖を翻しながら、足跡を立てない上品な歩き方で去っていった。ウィリアムは、暑く火照った頬の熱を覚ましながら、彼女の小さくなってゆく後ろ姿を見つめていた。


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