刮Jノ日ニハ歓喜ノ雄叫ビヲ

私の心は昂る。

最初は遠くの方で聞こえていた雷も、次第に近づいてきた挙げ句こちらの方でも怒声を轟かせていた。
周りの者の中には雷鳴を聞くたびに恐れて縮こまる者もいたが、私は逆にその者の気持ちは理解し難いものだった。
とは言え、私も昔は多分少なからず怖いと感じた時期はあったと思われる。
多分、物心ついて、記憶が曖昧な、何かあればすぐ誰かにすがり付き泣くことができた弱い頃の時代には。
だから、『怖がっていた』頃の感情を思い出さない限りはその者の恐怖は一生理解し得ないものなのである。

最近は雨は一切降らず、風もない暑い日々が続いた。
そんな時に降る雨だ。それ故に弾むようにその雷の光が視界の隅に映るたび、次の怒声はまだかまだか、風によって屋根に叩きつけられてリズムを刻む雨はまだかまだかと待ちわび、一層胸が高鳴った。
いや、この場合は怒声と言うより、ばか騒ぎしている、と表現したほうがふさわしいし、しっくりくるように思われる。
とにかく雷、雨、風が圧倒して広がるその先には、涼しく過ごしやすい一日が見えていたので、余計に今日の雨が嬉しかった。

洗濯物を急いで取り込もうと思って外に出た。
刹那、詰まる息に感動を覚えてしまった。
外に出ることがここまで息苦しいものだったであろうか?いや、違う、この風と雷の音が私の呼吸器を圧迫しているのだ。
息苦しい、同時に沸き上がる自然への希望、それと別に感じた人類への冒涜のようなもの。
私は洗濯物を取り込むのを忘れて、吹き付ける細かい露に濡れて少し鬱陶しくなった肌とか、雷によって生まれる地の震えに、ただ見とれていた。
名残惜しいながらも、部屋の窓を閉め忘れていたことを思い出して、雨が部屋の中に降り込まないように急いで踵を返した。

部屋の中で激しく高鳴る胸を冷ましながらも、昂る興奮に神経を研ぎ澄ませ、ただ音を感じていた。
今日の雨、雷、風は愉快だ。それぞれの旋律を自由に奏でていて、それでいて一つの“怒声”又は“ばか騒ぎ”として成り立っているのだから素晴らしい。

ここに、兄がいたら尚良かったかもしれぬ。
昔はよく兄とこういった日は歓喜の笑みを浮かべ頬を火照らせたものだ。
そうそう、兄が幼い私を脅そうとして言ったことを思い出した。

「雷が鳴ったら、鬼が子供を拐いにくる」

今思えば、本当のことのように感じられるから不思議だ。

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