剩wに母なる重みを抱き
しんしんと降る雨、雪のような軽さではないだろうか。
病気を患っているのもあるだろう。だが、この軽さはそのようなものではなく、言葉では表現できぬ靄(もや)のようなものだ。
とにかく軽いその体を背中に感じながら、一歩ずつ踏み進む。眼鏡に張り付いて、視界を乱して遮る雨粒もまた、私とその軽さを濡らして重くした。
それが調度よいのかもしれぬが、後にいる者は病気であるために、体を冷やすのは良くない。
体は大丈夫ですか、と問えば、平気だと弱々しく答えた。血色が悪い様子を見ると、平気というのは明らかな嘘であると伺える。
私に気を遣いすぎて、自分を犠牲にする癖は昔と変わらずといったところだ。
兎も角、これ以上病人を濡らす訳にはいかんと、近くの木の陰で雨宿りすることにした。
その時もおぶったままで、一向に止まない雨の下、灰に包まれた禍々しい空を見上げて時間を潰した。
体温が下がっているのか、背中に感じる熱が淡々と冷えていく。
大丈夫ですか、とまた問えば、小さく平気だと答えた。
「嘘をいいなさい、平気ではないだろう。」
「…大丈夫ですよ、私は。ありがとう、…ありがとう。 」
軽くなっていくようだ。
その言い様のない軽さと命の重さに、ただ静かに瞼を臥せることでしか、先程まで背中にいた母を弔うことができそうにない。
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