03

目を覚ますと、僕は車の後部座席にいた。手足は縛られている。僕はどうしてここに―・・・。
「目覚めたか?お前、いきなり倒れるからびびったぜ。」
 運転席から聞こえたのは、僕が倒れる前に聞いた声。どうやら僕は誘拐されたらしい。どこか冷静にそう考えていると、車は目的としていた場所についたらしく、キキッと音を立ててストップした。随分と荒い運転のせいで、僕は酔ってしまって気持ちが悪かった。すぐに後部座席のドアが開けられて、手足の自由がない僕は、運転席にいた男に担がれた。
「調べたけどよ、お前、本当にあの家に必要とされてないんだな。」
 男は鼻で笑うようにそういった。
「お前の、その諦めた顔が気にくわねぇなぁ。同情してくださいって顔、うぜぇよ。」
 ワントーン低く、男は冷たくそういい放つ。
「ち、違う!僕は同情してほしいわけじゃ、」
「違わねぇよな。必要とされてないあの場所から逃げようとしなかったのはお前の甘えだ。可哀想な生涯を送る自分に酔ってたからだ。俺がお前なら、今頃あの家の財産奪って逃げ出してるさ。」
「そ、そんな・・・。」
 言い返せなかった。確かに、僕はあの家から逃げることなく生きてきた。両親の愛を貰えないと知っていても、あの屋敷の離れに居続けた。それは、逃げ出す勇気も、逃げ出す気すらもなかったから。僕は、病気で両親にも愛されず、あそこで暮らしている可哀想な自分に酔っていたのかもしれない。否定することができなくて、男に担がれながら僕は黙ってしまった。
「この世界はお前に同情してはくれない。神様もなァ。」
 男は古びたプレハブ小屋の戸を明け、埃っぽい部屋に置かれたシックなソファに僕を置く。男が懐からナイフを取りだし、僕は身構えた。しかし、男は僕にそれを向けるわけでもなく、僕の手足を縛っているロープを切った。
「もうお前は自由だ。お前はどうしたい。」
「僕―。」
 男は膝をついて、僕の目を見てそう問いかけた。
「僕、僕は、色んなところを旅してみたい!」
 それを聞いた男は、口角をあげて立ち上がる。
「ふん、じゃあ俺たちについて来い!お前の見たことねぇもん見せてやるよ。」
 不思議と男が眩しくて、僕は思わず目を細めた。

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