「傷の手当はこんなもんで大丈夫か?」
「はい」

ボロボロ少女に手当を施し、聞いてみると彼女はかすかに微笑んだ。
つい数時間前までベッドの隅で震えていたとは思えない程、少しずつ心を開いてくれる少女。
今まで金や地位目当てで近づいて来た女とはまったく違う、もっとずっと綺麗な子。
だけど、ボロボロ少女。


『続・ボロボロ少女と金持ち男』


「ジュードは、ここに来る前は何してたんだ」
「医学校に通ってたんだ...、そしたら急に空が裂けて...よくわからない」
「...ごめんな」
「なんでアルヴィンが謝るの?」
「だって、俺しか謝る事が出来る人はいないから。ジュードには。」
「...ごめんね、アルヴィン。アルヴィンが居なかったら..僕..」

傷だらけの顔に涙がぽたりぽたりと痕を付ける。
本当はもっともっと綺麗だったのかもしれない。
だけどもっともっと綺麗だったらジュードと出会えなかったのだろう。

「ジュードはリーゼ・マクシアに帰りたい?」
「..帰りたいよ、元の日常に戻りたいよ」
「ごめんな、ジュード..」
「謝らないでアルヴィン。きっと帰れるよ。それに悪い事ばかりじゃなかったから」
「..無理しなくていいんだぞ」
「無理じゃないよ、だって、ほら。僕達は隔てられた世界に居るのに言葉が通じて、ーにたいと思ったけれどアルヴィンが助けてくれて」

『それだけ、ほんの少し嬉しいんだ』と彼女はまたかすかに笑った。
"ほんの少し"の後の残った全てをエレンピオスがジュードから奪ってしまったのだと哀しくなる。
咄嗟の判断で連れて来てしまったけれど、リーゼ・マクシアへは一般人はまだ渡れない。
無理して誤摩化す彼女を見れば胸が痛くなるだけ。

「アルヴィン、ありがとう。..ごめんね、僕に同情したからこんなに優しくしてくれるんだよね」
「ジュード、それは違う。」
「違うの?僕があまりにもボロボロで良心が痛んだのでしょ」
「...たしかに、初めはそうだったけど違うよ。」
「じゃあ教えて、アルヴィンの言葉で。」

じっと俺を見つめてくる少女。
今まで口先だけでは何でも言えていたはずなのに、こうも上手く口に出せない。
きっと、君に本当に恋してしまったのだろう。
でなければ掌の中と背中を湿らすような汗はかかないだろう。

「...好きになったんだ、ジュードの事助けたいって、救いたいって、俺が」
「アルヴィン..?」
「だから、ジュードの事を大切にしたいって優しくしようって思ったんだ」
「...」
「悪い、まだ会って数時間しか経ってないのに」
「違うよ、アルヴィン。嬉しいんだ。」

この時見た彼女の笑顔を俺は忘れる事はないだろう。
俺が出会って来たどんな高価な宝石に包まれた女よりもずっと綺麗だったから。

「でも、僕まだ、ここに来ていろいろあって、よくわからないんだ。」
「...悪いな、混乱してる時に。」
「僕が聞いたからアルヴィンは悪くないよ。それに..」
「それに、なんだよ」
「..きっと、僕アルヴィンの事が好きになる。アルヴィンがそうしてくれたように大切に思えるようになると思うんだ」
「ジュード..」
「だから、悪い事ばかりじゃないって思えたのかもしれない」

"好きになる"なんて曖昧な言葉、本当になるなんて事はないかもしれない。
だけど彼女が精一杯考えてくれた言葉がとても嬉しくて。
その言葉に喜んでいると彼女は俺を見つめて言って来た。

「僕、いつかリーゼ・マクシアに帰りたい。」
「...やっぱり、そうだよな...」
「違うよ、アルヴィン...。その」
「あ?」
「アルヴィンに見せたいんだ、僕の生まれた街とか........父さんと母さんとか...」
「..ジュード?!」

恥ずかしそうにすぐ顔を背けた姿もまた可愛くて、とても綺麗だった。
そんな彼女と俺が好き合って、リーゼ・マクシアの地に2人で降り立つのはもう少し先のお話。

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