その後、大広間で食事を取り入浴を済まし再び自室へ戻った。
学校で出された課題を取り組む、ただ流れるような時間。
それはノック音で止まる事になった。

「ジュード様、食後のティーをお持ちしました。」
「ありがとう、アルヴィン」
「ジュード様は勉学が非常に優れているとお聴きしましたが、少しは休まれる事も大切です」
「アルヴィンがそんな事気にしなくてもいいよ」
「失礼しました」
「ただ、僕は飛び入学で今の学校に入ったから覚える事が沢山あるだけだよ」
「左様でございますか。」

アルヴィンは僕の方向にあるテーブルで給仕を行っている。
自分が座っている席から静かに立ち彼の方に近づく。
僕の彼への興味が止まらない。

「ねえ、アルヴィン」
「ジュード様、どうなされましたか」
「アルヴィンの瞳の色...」
「変わっていますでしょう」
「うん..そうだね」
「ここではあまり見かけない色ですので珍しく思われますか」
「そう、だよね...」
「ジュード様はバーニャ様と同じ鮮やかなアジメストですね」
「父様と同じ、ね」
「ジュード様?」
「ううん、ありがとう。勉強しながら飲むからアルヴィンは下がって」
「失礼します」

僕は机の上に置いてある手鏡を手に取り、眼球に指を触れる。
取り出されたのは青々としたコンタクトレンズ。
本当の僕の目の色は父様と同じ色じゃなくてアルヴィンと同じあの色。
この世界で少数のあの色。

でも僕は世界で少数のこの色の瞳をした人達に囲まれた記憶がある。
囲まれて、父さんは叫んで、母さんは僕を抱きしめて...
そして銃声が鳴る...
何故か僕は囲まれる前と、銃声が鳴った後の記憶がすっぱり無いのだ。
だからそれが本当に父さんで、母さんなのかはわからない。
ただ覚えているのは父さんと僕は同じ色をしていて、父さんを殺そうとした人も同じ色をしていた。
でも僕が次に覚えている記憶からその色はなくなってしまったけれど。

アルヴィンの事、もっと知れば思い出せるかもしれない。
僕が忘れてしまったことを。


しばらく勉強を続け、息抜きにアルヴィンが煎れた紅茶を飲む。
雨音が鳴っているのに気づきカーテンを開ければアルヴィンが屋敷から出て行く光景が見えた。
時計を見れば使用人の自由時間だと気づき、好奇心で僕は彼を追う事にした。

彼に気づかれないように追って行けば、マナーハウス勤めが近寄らないだろう地下街。
そこに彼は平然と入って行って、幾多と並んでいる店には目もくれないで目的地へ進む。
ようやく彼が入った場所は積み荷に囲われた怪し気な場所へ。
そしてそこに集まっているのはやはり彼と僕と同じ目の色の人達だった。

『潜入は上手くいったか』
『あぁ、問題はない。が目当ての物を見つけるのに時間が掛かりそうだ』
『何かあったのか。見取り図は間違いないだろう。』
『この目当ての物があるはずの部屋なんだけど、子供部屋に変わっていたんだ』
『バーニャ家には子供はいなかったはずだ、少なくとも3年前はな』
『...どういう事だ』
『まあいい、例の物がありそうな部屋を探してくれ。増員はできたら行う』
『わかった。』

短い会話が終わり彼はまた来た道を戻って行く。
我が家のピンチにも関わらずこんなにも僕の胸は踊っている。
アルヴィンはもしかしたら僕の抜け落ちた記憶を埋めてくれるかもしれない。
だって、あんなに僕と同じ目の色をした人達を知っているのだから。

僕は父様や屋敷の人間に気づかれないように自室へ戻った。
そしてもう帰っているであろう彼を呼んだ。

「ジュード様、何用でしょうか」
「アルヴィン、目当ての物は見つかりそう?」
「...?なんでしょうか」
「僕はね、本当はこの家の子供じゃないんだ。だけど父様は父様だから」
「...!何の事でしょうか」
「だから、地下街で話てた事は内緒にしてあげるから、僕の言う事なんでも聞いてくれるよね?」
「..!」

僕が卑しく笑えば、アルヴィンは苛立ち混じりの笑顔をした。
僕が手を差出せば、アルヴィンは片膝を付いてそっと手の甲にキスを落とした。

「これは契約だよ、アルヴィン。」


『あの日、"僕"は死にました。2』

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