「ジュード君、今、何考えてんだろうな」

きっと怯えているに違いない。
捨てられた子犬のように身を屈めブルブルと全身で震えているに違いない。
ああ、可哀想に。可哀想に。

そんな事を考え、日がな一日を過ごす。
内通者との連絡は決して怠らず、仕事の業務はきちんと行う。
残った時間の全てはジュード君の事だけを考えている。

「あと、もう少しで学校が終わるかな。」

ジュード君が通う学校の近く、彼が帰宅で使う道に自然にとけ込む。
早く、早くこないかなと待ちこがれ、しばらくしたら彼は出て来た。

「...ジュード君?」
「!!...ア、アルヴィンさん...」
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「はい...大丈夫です。」
「大丈夫に見えないんだけどな、何かあればすぐ言ってくれよ」
「はい...昨日はすみませんでした、あの、電話...してしまって」
「市民を守るのが俺の勤めだからな、ジュード君の事守るからな」
「ありがとうございます...あの...」
「何だ」
「....あの...」
「言いたい事があるなら言ってくれよ。」

彼は結局、「何でも無いです」と言い軽く会釈して俺の前から去った。
「ポストに変な写真が!」とか「窓ガラスが割れてたんです!」言いたい事は多いはずなのに。
もっと、ジュード君の近い位置になりたい、それだけだ。
そしてジュード君の口から「僕を守って!側に居て!ずっと!」と言わせたいんだ。

『おい、あの少年が路地の裏に入ったら。行けよ。』
『本当に大丈夫なのか?』
『俺をなんだと思ってるんだ、それに報酬だってくれてやった。お前に拒否権はないだろ?』
『あぁ...』
『俺が出て来たら、すぐ逃げさえしてくれればいい。』

彼が去って、側に待機させておいた男との最終確認を行う。
なんともベタな手なのだろうか、なんてロマンチストなのだろうか。
彼からしたら最悪に違いないと思うが。

そして手はず通り路地裏からはジュード君の短い悲鳴が上がった。
あの路地裏だけは彼が通る帰り道で最も人通りが少ない、犯行を企てるのに一番の場所。
俺は路地裏に入れば俺が指示した通り男がジュード君を捕らえていた。
そして男は俺の指示通り入り組んだ路地へと消えて行った。
残ったのは地面にへたり込むジュード君ただ一人。

「ジュード君!」
「.....いや.....もう、...いや..こわい...いや...」
「しっかりしろ!」
「!!さわらないで!!!!!」
「!?」
「...!!ア、アルヴィンさん.....!」
「大丈夫か」
「....だ、大丈夫..です...」
「立てるか。」
「.....た、てま...」
「ほら、家まで連れてってやるから」
「..!!」
「あ、悪い。女性の部隊員呼ぼうか。」
「ち、違うんです...。」

俺が背中を向ければ彼は多少後ずさりをする。
そりゃあ彼は今"同性"ほど怖いものはないのだろう。
彼が遠慮するのを知りながら、案を出し彼に断らせる。

「違うって、何がだ。」
「....ほら、僕....き.....汚いから....」
「何言ってるんだよ、ジュード君はとても綺麗なんだけどな」
「...本当の事、言って下さい...」
「綺麗だよ、ジュード君。」
「!!」
「ほら、あまり遅くなると変なのが出て来るから早く帰ろうな」
「...はい」

そして彼を連れて彼の家へ向かう。
彼は落ち着かないようで、終止そわそわとしている。
まだ俺は彼の中で信頼のおける人物の中には入っていないのだろう。

「ジュード君」
「なんですか?」
「何か困った事があるなら言ってくれよ。じゃないと何かあったら大変だろ」
「...アルヴィンさん...」
「だから何でも言ってくれよ。」
「なんで、そんなに僕の事よくしてくれるんですか?見返りもなにもない僕に。」
「そう卑屈になるなよ。さっきも言っただろ?市民を守るのがお勤めだって」
「仕事だから、こんな僕でも守ってくれるんですか?」
「だから自分を卑下するな。そんなに信用できないか?」
「...少なくとも、今はこの街で信頼してる人..です。」
「じゃあ、困ってる事があるなら言ってくれよ。」
「...実は」

そう言って彼は自分の身に降り掛かった事や恐怖などを全てを語ってくれた。
こうして俺は彼の心の近い所に入って行く。
ここは雪山ではないけれど、彼の中でゲレンデマジックが起こっているに違いない。
自意識過剰かもしれないが、ふとした瞬間に見せる彼の安らいだ顔が証拠となるだろう。

「何かあったら、ちゃんと言ってくれよ」
「ありがとうございます、アルヴィンさん」

"じゃあな"と言って彼の家の前で別れる。
彼の心の近くに入る事はほぼ出来ただろう、でもそれではまだ足りない。
それではまだ"ただの良い人"で終わってしまう。
そうならない為にまだ、彼には奈落の底へ落ちて貰わなければ。


『Fake tolerance 4』

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