「君がアルヴィンか。私がこの屋敷の当主だ。よろしく頼むよ。」
「何卒ご遠慮なくお申し付け下さい、旦那様。」
「ああ、よろしく頼むよ。」

今日は新しい執事が来る日だった。
父様に写真を見せて貰ったらとても綺麗な顔立ちの男の人だった。
どういう人なのだろうかワクワクしながら学院から僕は帰った。

「父様、帰りました。」
「おお、ジュード。良い所に来た。紹介しよう、私の息子のジュードだ。」
「ジュード様、ですか。アルヴィンと申します。以後、御見知り置き。」

爽やかな面持ちの大人の男性、それがアルヴィンへの第一印象。

「父様。僕が屋敷を案内していい?」
「ジュード、学校で疲れただろう。部屋で休んでもいいんだぞ。」
「ううんいいの。父様。」
「この子は本当に良い子でね、学校でも成績は一番なんだよ。」
「父様、僕の話はいいから。アルヴィンを案内してくるね。」
「では、ジュード様。宜しくお願いします。」

そう深くお辞儀をしニコリと微笑むアルヴィン。
父様の書斎で彼の写真を見た時から僕の中の胸の高揚は止まらなかった。

「ここが僕の部屋だよ、アルヴィン。」
「ここがジュード様の部屋ですか。」
「ねえ、アルヴィン。」
「なんでしょうか。」
「アルヴィンって、偽名?ファミリーネームとかないの?」
「突然面白い事を言われますね、ジュード様は。」
「僕、アルヴィンの写真と名前を見てから、ずっと気になっていたんだ。笑顔の裏に何かあるんじゃないかって。」
「何もありませんよ。ファミリーネームがないのは孤児だからです。ブローカーにもそう伝えてあります。」
「そうなんだ。」
「だからそう、怪しまずにしてください。ジュード様。」
「怪しんでなんかいないよ、アルヴィン。」

ただ、僕はアルヴィンの事が知りたいだけなのだから。
僕と、僕のーと同じ...だから。

「ジュード様?」
「じゃあ、次は何処を案内しようか。」
「ありがとうございます。ですが、部屋はほぼ覚えさせて頂いたので大丈夫です。」
「アルヴィン、凄いね。僕でもこのお屋敷を覚えるのに2日くらいかかったのに。」
「最近のマナーハウスは覚えやすくなりましたので。」
「そうなんだ。」
「では失礼させて頂きます。ジュード様。」

そう言ってアルヴィンは僕の部屋から出て行った。
僕はブーツを脱ぎベッドに寝転がる、新品のシーツがとても居心地悪く感じた。
この居心地の悪さを忘れるために僕は目を瞑った。


『生憎だが、この銃の火薬はあと2つ程残ってるんだ。』
『...!』
『裏切り者のお前と、何も知らない妻、その間の子供』
『わ、私なら何をしてもいい。だから妻と子供には手を出さないでくれ!』
『ではお前が悲しむのを見物するのもいいだろうな。お前が生き残るか?』
『私はただ、普通の家庭を築きたかっただけなんだ』
『そんな言葉が俺に通るとでも思うか?せっかく選ぶ権利を与えたのにな』
『いい加減にしてくれ。殺すのであれば私一人で構わないはずだ。』
『家族全員皆殺しにされないだけありがたく思って欲しかったんだがな。やれ。』


銃声が眠りの世界で鳴った瞬間、僕は目が覚めた。
現実世界では銃声ではなく、扉のノックの音だった。

「ジュード様、お食事の時間です。」
「今、行きます...。」
「ジュード様?」
「なんでもないから、下がって。アルヴィン。」
「..畏まりました。」

足跡が遠のき、深く呼吸をする。
忘れたくても忘れられない昔の話。
そして、あの銃声を境に僕の日常が百八十度変わった日。

「僕と、僕と同じー...か。」


『あの日、"僕"は死にました。』

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