「つまり、マティスは俺の事が好きなんじゃないか?」

まさに、図星だった。
諦め切れないこの思いは好きという気持ちにとても似ている。

「...そ、んな」
「顔に図星ですって書いてあるぞ」
「か、書いてない...と思います。」
「お前頭良いのに、なんかよくわからない奴だな。」

ソファーに寝転ぶ先生と立ちっぱなしの僕。
行き場のない手足がフラフラと揺れて持っていたノートがバラバラと落ちる。
僕が拾う数コンマ前にそのノートを先生が取り上げた。

「何後生大事に持っているかと思ったらただのノートか。」
「あの、返して下さい...。」
「...授業のノートっていう訳でもないよな?小説家でも目指しているのか」
「...返して下さい。」

先生はニヤっと笑っただけで僕の手元にノートが帰って来る事はない。
見られてしまう、恥ずかしい。フラフラと揺れる手足が更に震える。

「...?」
「...なんですか。」
「マティスって俺の事が嫌いなのか?」
「...言いたくないです。」
「パラパラっと捲っただけなんだが、俺と同じ名前の奴が数回裏切ってるぞ。」
「...だから、....もう返して欲しいんです。」
「それで最期は"僕"が撃たれておしまい?俺が好きなのか嫌いなのかわからないな」
「...」

それは僕が先生の事を諦める、嫌いになる為の話なのだから。
僕が嫌な事を本の中で疑似的に体験したら本当に嫌いになれるのではないかと思ったから。
だから僕はその中で幾度となく裏切られ、最期は撃たれて死ぬ。

「立ちっぱなしもしんどいだろ、隣座れよ。今ホットミルクでも作ってやるから」
「...」

入れ替わるようにソファーに座れば良い子だと言わんばかりに頭をくしゃくしゃとされた。
数分も経てばほのかな良い香りを漂わせて先生は帰って来た。

「ほら。」
「...ありがとうございます。」
「...この話はこれで終わりなのか。」
「え...?....いや、まだ書きたいような、書きたくないような...」
「『本当は僕も報われたいと思ってるんです』ってか」

あぁ、そうなのかもしれない。と思った。
僕は終わったつもりだった。
だったらなんで僕は父さんに"あと少し"なんて言ったのだろうか。

「...かもしれません。」
「あとな」
「質問攻めですね。」
「ほら、」
「ほら、なんですか。」
「なんでもない。じゃあ登場人物が俺とお前だけじゃないのは何故だ」
「..なんででしょう。...僕と先生は所詮結ばれる事はないから」
「なんか壮大な告白を受けた気がするんだが」
「...。」
「いいよ。続けろよ。」
「だから、この人なら仕方ないやって思える人が良かったんです。」
「"あの子"とは違って、か」

見透かされてるのだな、と思った。
僕は僕の後ろの席の女の子を嫌悪した。
その子じゃない、もっと、僕には叶わない、そんな素敵な人が居れば僕も諦めれると思った。

「マティスが本を取りに教室に戻った日から学校に来なくなったもんな」
「...先生、気づいていたんですか。」
「"あの子"は気づいてないけどな。」
「僕、先生の事が好きだったんです。だから見たくなかったんです。...弱くてごめんなさい。」
「頭いいのに学校行かないともったいないからな」
「...だけど、まだ行きたくないんです。そういうの見たら、僕。」
「『先生を独り占めにしたい』っていう事?」
「もう、僕の真似はやめてください...。だから、諦める為に...嫌いになろうとしてたんです。」
「先生泣いて良い?」
「先生は泣かないでしょ。僕に嫌われたぐらいで。好きな人は沢山居るんですから。」
「ふーん。で、そこからどうして家出になる訳?」
「父さんが、..急かして、煩わしく思えたから...。」

そう言えば、先生は顔を顰め始めた。
それはそうだろう、家では捜索なんかされてるかもしれない。
でも忙しい両親の事だ。あまり心配はしないかもしれない。

「マティス、良い子でお留守番はできるな。」
「え、先生何処いくの?」
「んー他の女の所かな。...あー嘘だからそんな哀しそうな顔するな。」
「...そんな顔...してないです。」
「お前の親さんの所に行ってくるんだよ。捜索されてたら大変だろ。」
「...僕、帰りません。」
「んな事わかってる。始めにも言っただろ。」
「すみません。」

そう言って先生は部屋から出て行った。
ソファーに置いたままにされた先生の上着を見つけそっと握りしめれば先生の臭いがした。

「僕は、本当に諦めれるのだろうか。」


『paranoia 03』

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