あれはつい数日前の出来事だった。
俺がイル・ファンにスパイとして潜入し表向きは治安維持部隊専属となって数ヶ月目の事。

「居住区で暴行事件が起こったと通報があった、先攻して数名向かったがお前も行ってくれ」
「はいよ、居住区だな。」

教えられた場所へ向かうとその部屋から逃げ出す者とそれを追う数名の仲間。
逃げ出す者の努力は虚しく間もなく取り押さえられる結果となった。
"俺が来る必要はなかったのではないか"と溜息を吐き先輩に呼ばれ現場へ近づく。

「被害者を治療へ連れて行く、お前は現場。」

指示された通り現場に向かえばドアは開きっぱなしの無人状態。
玄関は酷く荒れていたのに対しその先はまったく荒れていない。
つまり被害者は来客を装った男に襲われたのだ。

「んー。」

玄関をふと見るに違和感があった。
"襲われた"はずなのだが、履物を見るに少年か青年ぐらいの男の部屋だった。
捕まったのも男だった。つまり被害者の男は同性である男に襲われたのだった。
散らばる履物の下に光る物が見えた、電子端末のレンズの光だ。
俺は念のため、というか好奇心でその端末の電源をつけた。

「....!」

そこには被害者と思われる男性のあられもない姿があった。
綺麗な黒髪に橙の潤んだ瞳紅潮する頬所々に飛び散る精液、表向きの職務を忘れ一瞬股間が熱くなる。
気づけば無心で電子端末の写真を次々と見ていた。彼が"欲しい"と思った。
そして俺はとある犯行を企てたのだった。


「ジュード君、もう体調は大丈夫か。」
「大丈夫、です。ただ...」
「心配するのも無理はない、あの男が再び逃げ出してしまったのを止められなかった。すまない」
「...そろそろ学校に行かないと授業にも追いつけなくなるので...」
「何か合ったらすぐ連絡してくれ。」
「...アルヴィンさん、ですか」
「あぁ。好きに呼んでくれ」

被害者のジュードという少年は自分の出した名刺を受け取りしまった。
彼はとても不安そうな顔をしている。それは仕方のない事だ。
あんな事件の後だ。しかも犯人は独房から逃亡する手段を取り行方をくらました。

しかし彼は知らない。これは俺が企てた犯行の一つである事は。
俺は彼を手に入れる為に"あの男"の存在を利用しようと考えた。
そして俺はとある晩に独房に忍び込み見回りを気絶させ眠っている"男"を殺した。
その後は独房のドアを開けたまま"男"の死体を持ち出し処分した。
何も無かったように自室に帰り朝を迎えれば"男"が逃走するという事件の出来上がり。

さぁ、次の計画に移ろう。



『Fake tolerance』

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -