「ジュードくん」
「なに?アルヴィン」

ジュードと結婚し同居を始めて、早い事一ヶ月。
ジュードといえばキッチンで料理を作っている。

「何作ってるんだ?」
「ピーチパイだよ。」
「うまそうだな。」
「もうすぐできるから待っててね。」

"手伝おうか"その一言はジュードの優しさで揉み消された。
2人用の大きめのソファーに転がってキッチンから聴こえて来る調理の音に耳を傾ける。

「できたよ。アルヴィン。」
「なんか全部任せて悪いな。」
「いいんだよ。僕が好きでやってるんだから。」

そう、ニコニコと微笑んで純白のテーブルに皿をジュードは置いた。
同棲を初めて全ての家事はジュードがやってくれる。
自分も働いて忙しいはずなのに時間があれば俺の好物を作ってくれる。

「アルヴィン?食べないの?」
「食べるよ。」

時々俺は考える。
ジュードの隣に俺が居てもいいんだろうか、とか。
ジュードに比べたら何もできないのに、と自虐を繰り返したりもした。
同情してくるんじゃないか、愛はないのではと行き過ぎた妄想で苦しみもがいた事もあった。

「どうしたの?何か考え事?」
「なんでもないよ」
「もう、そうやって隠し事。」
「隠し事じゃねーよ。」

そういって頭を一撫ですれば、ふいに拗ねた表情をした。
そう、こんな事は口にしてもどうしようもないんだ。

「アルヴィン。」
「ん、なんだ。」
「やっぱり教えて欲しいな。アルヴィンが思ってる事。」
「ん」
「だって、ほら。もうアルヴィンだけの問題じゃないんだよ?」

拗ねた顔が少し本気の顔になって俺の顔をまじまじと見つめて来る。
だからといって、こんな事はあまり言いたくない。

「言いたくないんだ。」
「...」

『なら、いいよ』と言ってジュードはパイを切り始めた。
そう健気に割り切って作業を再開する姿にちょっと心が痛んだ。
こうやって割り切られるだけでジュードが大人に見えて。
俺の方が大人のはずだったのに。なのにこうも釣り合わないと思えて。

「気にしてな」
「俺って」
「?」
「ジュードの側に居ていいの?」
「今さらどうしたの」
「不安になるんだよ」

そう言った俺はどんな顔をしていたのだろうか。
きっと捨てられて雨にでも打たれた犬みたいな顔でもしているのだろうか。
ジュードはそんな俺をそっと抱きしめてくれた。

「...」
「僕がアルヴィンの事好きだし、大切だから側に居てもいいんだよ」
「ジュード」
「アルヴィンに側に居て欲しいんだ」
「...なんか当たり前な事聞いた俺が馬鹿みたいだな」
「そうだよ、アルヴィンは馬鹿だからね」
「うるせーよ」
「だからね、寂しがらないでね。誰にも愛されてないなんて思わないで。」
「...」
「アルヴィン?」
「ありがとな。ジュード。」

耳元でそう呟いたらジュードはまた微笑んでパイの乗った皿を手にとった。

「冷めちゃうから食べようか」
「食べさせてよ、ジュードくん」
「それぐらい自分で食べれるでしょ」
「いいだろ」
「もー」


口の中に入ったパイは昔に誰かが作ってくれた味にとてもよく似ていて。
きっと実際は違うだろうけど。

『ママのピーチパイが一番好き!』
『ありがとう、アルフレド』
『お店のよりずっと、ずーっと好きだよ!』
『それはね、アルフレドが美味しく食べれるようにおまじないをしたからよ』
『おまじない?』
『それはね、アルフレドが大人になったらわかるよ』

今になって蘇った記憶は昔のあの人。
あぁ、そういう事なんだって理解できた俺は大人ではないかもしれないけれど。

「アルヴィン?」
「美味いな」
「それなら良かった、アルヴィンに喜んで貰えて」
「ありがとな」

きっと、今も昔も好きなこの味にはきっとおまじないがしてあって。
昔はお袋にしかできなくて、今はきっとジュードにしかできなくて。
だって、きっとそれは俺だけに向けた

『愛情入りピーチパイ』

だから





甘々なのに一回シリアスに落とさないと気がすまないらしいです。

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