人間の正常な判断を奪う要因はいつも外からやってくるもの。
一方的な暴力であったり、心理的な虐待であったり、性的な強姦であったり。
自分がまだ、こう考える事ができるのならばまだ自分には正常な意識があるのだ。

焼け付く様な下半身と、あらぬ方向を向いてしまっている足と、止めどない涙が出る瞳。
どうすればこれを回避できたか、なんて今の自分でも想像がつかない。
謝れば殴られるし、抵抗すれば拘束されて犯されるし、それを逃れる為に卑猥な言葉を言っても嘲笑われるだけ。
自分は一生この檻から出られないかもしれない、そう考えると全てがどうでもよくなってしまうような気がする。
それでは駄目だ。と折れた足を引きずり這いつくばって出口に向かえば首についた長い鎖がそれを拒む。
八方ふさがりだ。


「あとはこの書類をハウス教授に届けて、と」

夜間の病院。昼間の間に積もった書類を片付けていく。
最期の書類を片付ける頃には他の部屋の明かりはだいたい消えている。
只でさえ暗いイルファン。自分に襲いかかる不自然にまだこの時僕は気づいていなかった。

"シュー"

異変に気づいた頃には部屋は薄い煙が蔓延していた。
僅かに空いたドアの隙間から入れられた催眠煙に気づいたのはもう部屋がスモークがかってから。
程なくして僕は意識を失った。

「ジュード、起きろよ」

頭を揺さぶられるように乱暴に扱われ、重い瞼が少しづつ開く。
僕が居た場所はタリム医学校ではなく、もっと薄暗い地下室のような場所。
僕を起こした人物の顔はあんまり見えない。

「うう...」
「あぁ、痛いのか?」

そういって彼は僕の頭から手を離し立ち上がる。
肉声だけでまだ相手の判断はできない。

「だ..れ...?」
「あぁ、僕だよ。」
「わか、らない」

そう口が開いた瞬間、鳩尾に蹴りが一つ飛んで来た。
先ほどまで眠らされていた体に受けた凄まじい衝撃により再度眠りを誘導させるが彼はそれを許さなかった。

「分からない?そうだよな、僕みたいなのわからないよな?」

首根を激しく捕まれ呼吸が乱れるが男はさして気にはしない。
彼が僕に近寄ったお陰で彼がようやく僕と同じ医学生である事を思い出した。
ただ、年は僕より10歳ぐらいは上で同級生だという事は思い出した。

「く、くるしい」
「嫌だ。辞めないよ。ジュードが苦しむ姿が見たかったから」
「...うっ」
「でも死んだら面白くないから、ほどほどにしないとな」

そう言い僕の首を最大限締めて再度床へ僕の体を投げつけた。
そして床へだらし無く伏した体を彼は容赦なく踏みつけた。

「おまえなんか、おまえなんか」

そう繰り返し言いながら体の節々を踏まれ短い悲鳴が口から止めどなく溢れ出る。
それを聞いた彼は満足そうに笑い踏みつける行動は病まなかった。
相手が狂っているうちに、と意識が半分遠のきそうな体を回転させ彼から距離を取る。
最大限の早さで起き上がるが彼は狂ったように近づいて来て僕の体を捕まえた。

「逃げちゃだめだよ。ジュード。もっと、もっと痛めつけないと。もっともっと。」
「うあぁぁっっ!!!あぁぁっ、痛い、痛い痛い」
「これでジュードは逃げられないよね。可哀想。可哀想。」

彼は僕の足を掴んだ、どうされてそうなったかは見解がつかないが足を折られてしまった。
ただ蹴られるのとは違いするぎる激しい痛み。嘔吐感。目眩。
意識も遠のきそうになるが髪を掴まれ憎悪の視線を向けられる。

「寝ちゃいけないよ。ジュード」
「ゆ、るして..ごめんなさ」
「だから嫌いなんだよ」

そう言って髪を掴んでる手とは反対の腕で頬を殴られた。
きっと口の中も切れてしまったのだろう、口の中に広がる鉄分がそう物語る。

「なんでそんなに要領よく謝れるんだよ。これ以上僕を惨めにするな」
「....う...っ」
「嫌いなんだよ。お前が。お前を見てると僕が惨めすぎて」

コンプレックスという言葉が浮かんだ。
彼は辺境の貧しい街に生まれ細々と溜めたお金で医学校に入った。
年齢はすでに成人していたが医者という夢を諦め切れなかったらしい。
晴れて学校に入ったはいいが学業になかなかついていけてない。
レポートがいつもギリギリで浅いものだと、教授が漏らしていたのを聞いた事がある。
反面「頑張っているのに惜しいよ」と付け加えて。

「も、やめて...」
「そんな可哀想な顔で見るなよ。お前の存在が僕を惨めにさせるんだ。」
「そんなこ、と」
「煩い。家が医者で成績も良くて教授からの信頼を受けるお前が憎い」
「....」
「だから、お前が惨めになるまで僕は辞めない。」

そういって彼は僕の白衣に手をかけた。
嫌な予感しか過らない。逃げ出したいが体はボロボロで指一本動かす事すらできない。

「怖い?ジュード、怖い?」
「...」
「でもやめてあげない。」

そう言って僕の白衣を左右に引きちぎり肌を露出させられた。
彼は"汚してやる、穢してやる"と朦朧と呟き僕の下半身を持ち上げ性器をねじ込んだ。

「ぎゃぁぁっ!!!、痛い、痛い、さ、裂ける」
「ほらジュード、真っ赤な血が流れてる。あれ、泣いてるの?」
「..痛い、...痛い...ううっ」
「痛いよね、もっと痛がって僕を満足させてね」
「ああああっ」

彼はそう言って体を押し進める。
耳を侵す卑猥な音と、痛みと、舐るように憎むように睨む視線、僕はどうなってしまうのだろうか。
彼は僕のこんな姿を見て大層満足しているらしい。
彼の口から漏れる奇声と僕の中で体積を増す性器がそう物語ってる。

「何黙り込んでるんだよ。」
「ぎゃぁっ」
「こんなに萎えては僕だけが気持ち良いようで不愉快だな」
「うっ」

萎え切った自身に手をかけられ扱かれるが感覚が麻痺しているのか気持ちのよい物とは思えない。
僕が感じる事ができる事はただ辛いという気持ちだけだった。

「うう..痛い、も、やめ」
「痛い?僕が自ら触ってやってるのに?ほら、気持ち良いだろ?」
「い、痛い..」

額から流れる汗は体中に暴行を受けた痛みのせいだろう。
殴られ、折られ、掘られ、締められ、この状況で快感なんて生み出せる訳がない。
でも彼は僕が快感でないのが許せないようで痛いぐらい性器を握り込んで来る。

「ほら、言えよ。触られて気持ちよいって。ほら」
「...うぅ」
「ほら。」
「.....き、もち、いい...です...」

握り込まれる性器の痛みから脱却すべく言った言葉に彼は満足して律動を再開させた。
結局、下半身に感じる痛みは場所が変わっただけで何一つ僕を楽にはさせてくれない。

彼はそうして自分勝手に腰をすすめ、勝手に僕の中に欲望を散らした。
彼の性器が僕の中で果てた時、体中に感じる痛みに限界を感じて僕は気を失った。


「う、あ...」
「起きたか。僕は医学校に行くから大人しくしておくんだ。」
「ぼ..僕、開放して..くれないの...?」
「君がいると僕が惨めで仕方ないから僕が君より優れたら開放してやるよ」
「...そ、そんな...もう...」

そう言って彼はイルファンの薄暗い街へ消えていった。
それをどうにか追おうと這いつくばって腕の力だけで進むが前進を拒む鎖によって歩みは止まった。

きっと、僕は開放される事はないのではないか。
きっと、この狭い檻の中には彼の憎しみによって溢れる程の人間が捕まってしまうのではないか。
僕は落胆と絶望と痛みを幻想だと思う為にそっと瞼を閉じた。


『憎しみの檻』





プライドが高いモブとひたすら可哀想なジュード君のお話。

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