『あのね、アルヴィンには絶対..伝えないとって、言わないとって』
(そんな言葉、聞きたくなかった)
『こんな事、平気で相談できるの..アルヴィンぐらいなんだ』
(そんな切ない顔して、言わないでくれ)

俺達の長いようで短い旅が終わってから数ヶ月。
その旅路の中で俺はとある人が好きになった。
半分は大好きな人の為に好きな人を欺いた日常。
あとの半分は好きな人に奮い立たされて築いた日常。

でも無情にも好きな人に俺の気持ちを伝える事はできなかった。
さんざん裏切った挙げ句"好きだ"なんて言葉を真実として受け取って貰えるか不安だったからだ。
それなら、バラバラに進んだ道であの少年に"変わったね"と許して貰えるぐらい、ちゃんと大人になってから。
そんな悠長な事を考えて過ごして来た。でもそれは間違いだったらしい。

「アルヴィン、最近、どう?」

シルフモドキがやってきてから2日後にジュードが俺の元にやってきた。
久しぶりの再開に、挨拶を交わして一瞬の空白を開けモジモジと彼は喋り出した。

「どうって、見ての通りだけどな」
「順調そうで、良かった」
「..どうしたんだよ。改まって会いに来るなんて。用事ならいつも通りー」
「..こ、言葉にするのが難しくて...!それに、こんな事、平気で相談できるの..アルヴィンぐらいなんだ」

そのまま彼は続ける。
一言一言を躊躇うように、少しずつ話始めた。

「す、好きな人ができたんだ」
「へー」

心臓が痛くなった。
悪い予感しかしなかった。
この話の続きを、聞きたくなかった。

「だ、だけど。男の人で、それも年上なんだ...僕..どうすればいいんだろう」
「...」
「あ、ご、ごめんね。気持ち悪いよね...うん、ごめん」
「...んな事ねーよ。」
「なら...良かった。」
「で、誰なんだよ?俺の知ってる奴か?」

心が乱れて行くのがよく分かった。
この場所に居たくはなかった、この話を聞くのが何で俺なんだろうかすら思う。
大好きな、大好きな彼が奪われて行く。
それを助けろというのか。

「...うん、とっても。」
「誰だよ。」
「...ガ...ガイアスが、好きなんだ。」
「...ガイアス、な。」

奇しくも大好きな彼を奪うのは一国の王様らしい。
なんだ、とてもロマンチックな話じゃないか。

「アルヴィン?」
「あぁ、悪い。..ガイアスなら、なーんもしなくて普段のおたくで大丈夫だよ」

大丈夫じゃない、俺が大丈夫じゃないんだ。
きっと彼と彼は結ばれてしまう、そんな気がしてならなかった。

「ほんと?!大丈夫かな..」
「大丈夫だよ。」

そうポンと彼の頭に手をのせくしゃくしゃとして部屋を出る。
ジュードは「もう」と言って少し顔を顰めたが嬉しそうな顔をしていた。
本当はそういう顔をさせるのは俺でありたかったのに、と儚く願うも現実はそうじゃないらしい。


それからまた数ヶ月が経ってジュードが俺を訪ねて来た。
相変わらず俺はジュードへの想いを捨てる所かその想いに拍車が掛かって大きくなるばかりだった。
何かにつけてジュードの事を思っては溜息を付く、まるで思春期の男子のように。

「なんか、あったのか」
「あのね、アルヴィンには絶対..伝えないとって、言わないとって」
「あ?」

そう嬉しそうに話す彼の口を塞いでしまいたいと思った。
そんな残酷な話は聞きたくない、この話が終わったら彼はもう自分の所に来てはくれないような気さえした。
後生大事に城で守られて、俺なんかとは話すらできないのではないか。
彼がそう話した訳でもないのに、悪い考えばかりが頭を過る。

「...ガイアスに、頑張って言ったんだ」
「...そうか」
「でね、ガイアスも、同じ事思っててくれたんだって」
「...」

そこからジュードはいろいろな事を話してくれたが頭の中に残る事はなかった。
ただ、呆然としていて、胸が苦しいし、頭も痛いし、ただ受け流す事に必死だった。

「でね、この前、一緒に―」

続けられる彼の惚気話に心が折れそうになる。
聞きたくない、聞きたくない。
俺が、俺が、大切にするはずだったのに。
その願いすら叶わない、見向きもされないただの"オトモダチ"になりたくない。
だったら、せめてあの精霊山で最期にジュードを裏切って死ねば良かったなんて思って

あぁ、苦しい。
この先、共に歩めないなら俺が引きずり下ろしてしまいたい
普通の関係じゃ居られなくなっても、側に居たい

「...あ、アルヴィンごめんね。なんかこんな話ばかりして..でも、僕幸せなんだ」
「...」
「ア、ルヴィン?」

数ヶ月前の良き大人になろうとしていた俺はもう居なかった
手が届かなくなる前に、捕まえなければ
俺が変わる前に、変わってしまったジュードを捕まえなければ

「...くっ」
「アルヴィン、どうしたの?急に笑って」
「..嘘だよな」
「何の事?」
「ガイアスが好きって、嘘だよな?付き合ってるって嘘だよな」
「ほ、本当だよ!昨日だって..」
「嘘だよな」
「アルヴィン!ほ」
「だーって、ジュード君は俺の事が大好きだから」

もう何もかもが終わる音がした。
ジュードが言い切る前にその口を掌で塞いだ。もうそんな話は聞きたくなかった。

「...っ!!」
「なあ、嘘だろ。ジュード君は嘘つきだな」
「...」
「何、怯えた顔してるんだよ。...あぁ、塞いでたら何も喋れないもんな」
「っはっ!アルヴィン!冗談でも」
「冗談じゃねーよ。」
「僕は」
「うるさいんだよ。」
「..」

ボロいソファーが軋み、ジュードが少しずつ距離を取ろうとするがそんなのは許さない。
頬をなぞり、その手を首もとへ移動させれば恐怖で顔は怯える。

「ア、ルヴィン..」
「そう怯えるなよ。」
「ぼ、僕...もう、かえ」
「俺が帰すと思うか?イルファンにもガイアスの所にももう帰さないよ」
「じょ、冗談だよね」
「冗談言ってる風に見えるか?」
「...」

捕まえなければ、離れてしまう
無理矢理にでも繋ぎ止めなければ、捕まえる事ができない所に行ってしまう

「ア、ル..ヴィン...」
「これでずっと一緒だ。ほら、ジュード嬉しいだろ。」
「...」

部屋に置いてある用途不明の長い鎖をジュードの手と俺の手を結べば心が僅かに安らぐ
それを見たジュードはただ怯えて抵抗して暴れるが、後ろに回って鎖を首で一周させれば自然と抵抗はなくなった

「で、何の話をしてたんだっけ」
「...」
「ほら、ジュード君は誰が好きなんだよ」
「...」
「ほら」

黙り込むジュードの首に絡み付く鎖を引く手を思いっきり引っ張ればジュードの顔は青ざめた
拘束してない片方の手で鎖に手を伸ばすが開放には至らない

「うぅ...」
「なあ、誰が好きなんだよ」
「...」
「言えるよな、優等生」
「ア....アルヴィンが....好き...だよ....」

そう言うジュードの目には涙が溢れていた。
それには気にもせずただ、「好き」の言葉に満足して俺は鎖を引く力を弱めた

「....っ」
「良かった、これで両思いだ」
「....」
「嬉しいだろ、ジュード」


『それは脅迫に満ちた強迫』


「....嬉しい...よ...」





ガイアス→←ジュード←アルヴィンからのガイジュ←アルヴィン。

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