「アルヴィン、真面目に僕の話聞いてる?」
「聞いてるから」
「じゃあちゃんと板書して。アルヴィンの為の補習なんだから。」

成長の個人差とは残酷な物だと思う。
俺よりも年上の癖に俺よりちっぽけな先生。
黒板の上の方はいつも少し空いていて、発育の差がわかる。

「ちゃんと真面目にしないと、留年しちゃうよ」
「そしたらまたジュード先生に1年お世話になるな」
「"なるな"じゃないでしょ。ほらあと少しだから頑張ろ」

そうにこやかに微笑むジュード先生はとっても可愛い。
クラスの女みたいに変に着飾らないしそのままで凄い可愛い。
可愛い、可愛い。
なんて言うと顔真っ赤にして怒りそうだ、先生は男だから。

「もー、話聞いてる?」
「聞いてるよ。」
「じゃあここ解いてみて。」
「――。」
「合ってるよ。いつもがこうだといいのに。」

はあ、と溜息ひとつ吐く先生も可愛い。
こうやって先生の仕草一つに可愛い、可愛いと言う俺はなんて健全な男子学生だろうか。
先生が女だったら良かったのになんて発想はもう無くなってて、
黒板の空いた上の方を先生を抱えて書かせたらどうなるのだろうとか考えてて
やっぱり怒るんだろうな、とか。
軽いんだろうな、とか。
微かに触れた髪から良い匂いがするんだろうな、とか考えてしまう。

「先生忙しいのに俺の為に補習なんて頑張るな」
「頑張るな、じゃなくてしないように頑張ってね」
「はいはい。」

消して、また書かれる黒板の文字はやっぱり上が少し空いている。
わずかに上がった踵が可愛くて黒板の文字なんか目には入らない。

「先生。」
「なに。アルヴィン」
「俺、背高いから。教卓が邪魔で下が見えない。」
「あ、ごめんね。近寄って書いて。」
「じゃあ先生。俺のノートに書いて。」
「自分で書かなきゃ覚えられないよ。」
「ほら、急な病で立てそうにないから。」
「どこから見ても健康体そのものだよ、アルヴィン。」

そう言う先生に顰め面を向けていると俺の机に近づいて来るジュード先生。
ノートを覗き込んで『どこまで書けたの』なんて言って。
惜しいと思った、あともう少し顔が近ければそのまま淡い桃色の唇を頂けたのに。

「?僕の顔何か付いてる?」
「付いてないよ、それより先生ここなんだけど。」

そう言って指を指せばさっきよりも縮まる先生との距離。
ほら、あと少し自分が前に屈めばできてしまう。

「アルヴィン、どこ?」

そう言ってノートに向かっていた先生の顔は俺の方へと向いた。
無意識なのか、策通りなのか前屈みになっていた体と顔は先生とぶつかる。

『え』

それは俺の希望通り、先生の唇と唇がぶつかってしまった。
それから先生は声にもならないような吐露を重ね、顔は真っ赤だ。

「ア、アルヴィン、ご、ごめんね...?!」
「せん―」
「せ、先生変な事思ってないから、偶然のじ、事故だから..ね!!」
「せ―」
「ちゃ、ちゃんと責任取るから、うん、ちゃんと取るから..!」
「おい―」

しどろもどろにも言葉を重ね焦っている先生。
社会的には事件だ。裁判的には有罪だ。俺的にはとても幸せだ。

「ま、まず。消毒とか必要だよね。うん、そうだ、保健室に―」
「ジュード先生」
「あ、ごめん。...アルヴィン」
「先生。」

俺が静かに名前を呼べば若干落ち着きを取り戻したらしい。
でも相変わらず顔は真っ赤だった。

「消毒とか、責任とか、いいから。」
「でも、ほら..のちのちトラウマとか..」
「ならないから。」
「...ごめん、で、でもほら。何か悪いし...ね」
「じゃあ先生反省するなら、一個お願い聞いてよ」
「...成績とか意外なら」
「真面目だな、相変わらず」
「それは、..それでしょ」
「じゃあ。もう一回事故してみようよ。」

先生は『へ』と言って膠着してしまった。

「ね、一個。だから。」
「...!しないから、もう、アルヴィン、補習終わり!」

そう言って先生は教科書を纏めて教室から出て行こうとした。
去ろうとする手をぎゅっと掴むと先生は恐る恐る振り返った、やはり顔は赤い。

「一応、弁解はするけど。さっきのは本当に事故だから。」
「...うん、...」
「先生、俺の事、嫌い?」
「...」
「ねえ、先生。」

掴んでいた手を離したら手に持っている教科書を両手でぎゅっと握って先生は俯いた。
こんな事になるつもりなんて無かったのに、事態が俺の背中を押してくれるみたいだ。

「ねえ、先生。」
「...」
「...」
「あ、...」
「あ?」
「あ、明日も、補習、あるから、ちゃんと残り...するから!」
「せんせい」
「だから....ちゃんと戸締まりして帰ってね!」

そう言って先生は足早に教室を去って行った。
相変わらず顔の赤くなった先生が可愛く思えた、ここまで来ても思えるのだから末期なんだろう。

また、明日。
また、明日。

好きか、嫌いかなんて言われてない。
拒絶も肯定もされていない。
それが少し希望に思えて、俺もまた先生と同じように足早に教室から去った。


『事故なんて、必然の塊だろう』





自分の中ではジュード君はあれ以上身長が伸びないと思う。
アルヴィンはガンガン成長してると思う。

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