「はあ....」

閉め切られた部屋で僅かに漏れる光から時間を判断する。
気を失ってなければ、今日で10日目ぐらいだろうか。

「おい、ジュード...」
「なに、アルヴィン。」

俺はこの青年によって、部屋に監禁された。
度重なる浮気を重ねた俺への罰だろう。

「腹...へった」
「まだ、だよ。まだ4日しか経ってない。」

監禁だけならまだ良かったかもしれない。
俺はこの監禁されてからまだ一回しか食事を取っていなかった。
傭兵中に数日間飯を食べない、なんて事はザラにあった。
だから、今回も大丈夫だと思っていた。
しかしジュードの思惑はもっと人外れた部分にあった。

『死ぬ...んだけど...、もう』
『大丈夫だよ。水はちゃんとあげてるから、あと1日は保つよ』
『もう..6日目だろ...』

4日前は縋り付くように詫びて飯を貰った。
さすがにそろそろ限界だ。本当に死んでしまう、そう思い始めた。

「ジュード...、頼むから...もう浮気とか、そういうのやめるから」
「じゃあセックスしようよ」
「ジュード、頼むから」
「アルヴィンのその他の女を抱いた汚い体で僕と、しようよ」
「...」

性欲。そんな物は何日か前に無くなってしまった。
いくら"大好きなジュード君"と言えどこんな状況で起つ訳も無い。

「アルヴィン?なんで起たないの?」
「...起つ訳ないだろ」
「僕じゃだめなの?他の女の人ならいいの?」
「そういう意味じゃないだろ...ほら」
「じゃあ僕はアルヴィンが他の人の所に行って性欲を処理するのを黙ってずっと見ていれば良かったの?やっぱり男同士は気持ち悪いの?僕じゃ気持ちよくなれないから他の女の人の所に行くの?」

ぼんやりとした頭にジュードの声が呪文のように再生される。
そう、全部自分が招いた事。俺が悪い。
"浮気に対して酷い仕打ち"なんて考えは何故かスッパリ無くなって、自分の中にあるのはジュードに対して縋り付いて詫びなければならないと思う変な感情だけ。

「ジュード、悪かったから...そんな事思ってないから...」
「じゃあ、セックスしようよ。アルヴィン。」
「腹、減って...起たないんだよ。なぁ...」
「ご飯はご褒美にあげようかと思ってたのに」

そう彼は「うーん」と目の前で考えている。
思考回路が完全に狂った挙げ句にセックス依存症に近しい何か。
4日前はジュードに銜えられてやっと立ち上がった自身だったが、疲労困憊、異常な空腹感によりそれも叶わない。

この状況をどう対応すればいいのだろうか、どうすれば許してもらえるのか。
俺が悪い、俺が悪かったから。
その考えと俺を攻めるジュードの声が頭の中を永遠とループする。

「アルヴィン、お腹減ってるの?」
「あぁ..減ってる」
「アルヴィン、僕の事好き?」
「あぁ...好きだ」
「アルヴィン、もう浮気しない?」
「あぁ..しない」
「アルヴィン、ずっと僕と一緒に居る?」
「あぁ...居る」

繰り返す質問と返答。
"YES"と言えば許してもらえる。
"YES"と言えば飯が食える。
"YES"と言えば...

「アルヴィン、僕の事愛してる?」
「あぁ...愛してる」

"YES"さえ言えば

「アルヴィン、僕とのセックス好き?」
「あぁ..好きだ」
「アルヴィン、浮気した人みんな殺せる?」
「あぁ...殺せる」
「アルヴィン、―――――。」
「あぁ...―――――。」
「よくできました。アルヴィン。」

最後に言った質問と返答はもう覚えてはいない。
ただ、朦朧とした意識の中で"はい"と答えればきっと赦されると本能で思った結果。

「じゃあ、アルヴィン、ご飯にしようか」
「あぁ...しよう。」
「じゃあ口開けてね。僕が食べさせてあげる。」
「あぁ...」

ジュードの唇が俺の唇に寄って来て中途半端に開いた唇から温かいスープが流れ込んで来た。

「アルヴィン、おいしい?」
「あぁ...おいしい」

俺の中にまともにある意識の中でジュード君は厭らしく笑った。
その後の事はもう覚えてはいない。
全ては、ジュードの掌の中。


『掌で踊るマリオネットの最期』





胸くそが悪いですね。

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