あぁ、イライラする。
このイライラの原因は何だろうか。
心にごっそり開いた隙間には今まで何があったんだろうか。


「ねぇ、アルヴィン」
綺麗な目で、汚れも、人を疑う事さえしないその目には苛立ちを覚えた。
そうされる度にいかに自分が下賎な人間かわかるから。
ジュードを見る度にそう自覚させられるのが億劫で、とても不快だった。

「アルヴィン...最低...!!」
そう言わせた原因を作ったのは自分だった。
殴られても仕方がないと思う。
でも俺にとっては、ジュードの存在が不快でたまらなかった。
後から考えてみれば、ジュードが不快なのではなく只の自己嫌悪だったという事だ。

それからのジュードとの会話はあまりなく、朝の挨拶くらいだった。
他人行儀に接するジュード、でも決して無視する訳でも突き放す事もなかった。
その自分にはできない振る舞いは更に自分を自己嫌悪への道に突き落とす。

「...寂しいな。」
ふと、宿屋の自室で天井を見上げながら無意識に呟いた言葉に驚いた。
何が寂しいのだろうか、そもそも寂しいのにはもう慣れていたはずだ。
その寂しさの原因が分からずにまた、イライラが募る。

思えば昔はもっと寂しがり屋だったような気がする。
ピーチパイを焼いてくれる大好きなあの人には沢山心配をかけたような気がする。
その人が病になってからずっと寂しくて、寂しさには慣れたはずだったのに。

じゃあ、なんで今こんなに心に穴が開いたように寂しいのだろうか。
もしかしてアイツと触れ合う事がなくなったからなのか。
違うだろう、だって、俺はアイツに言った。
「アブノーマルじゃない。」「気持ち悪い。」って。
ただアイツは俺の言う事を聞いて、俺から離れてくれたのに。

なのにこんなに寂しい。
俺が望んだ方向に進んだはずだったのに。

あぁ、俺の心の隙間にはジュードが居てくれたんだ。


『正体Xの判明』


「アルヴィン、ご飯出来たから。」
ベッドで朦朧と天井を見上げてる俺にそんな声が聴こえた。
控えめに、他人行儀でジュードは言った。

「...っ」
「...アルヴィン?...泣いてるの?」
「...」

「あぁ」といつものように無愛想に返事をしようと思った。
なのに、それは言葉にならなかった。
それに気づいたジュードはベッドに近づいて来て、俺にそう言った。
今更、寂しいから許して欲しいなんて言えない。
やっぱり側に居て欲しいなんて、言えない。

「...アルヴィン?」
「...なんでもない。」
「..なんでもないのに、アルヴィンは泣くような人じゃないよね」
「...」

その通りだ、この年になって何かあった訳じゃないのに泣くなんて事はない。
ただ「ごめん。」と言えば済む話なのに。

「..ごめん、僕が聞いたってどうしようもないよね。」

そう言って、ジュードはベッドから離れて行く。
ここで言わなかったら、もう一生言えない気がして。
気づけば、ジュードの服の長い裾を引っ張っていた。

「...?」
「ジュード」
「何、アルヴィン。」
「...やっぱり側に居て欲しい...。」
「...わがままだし、自分勝手すぎるよ..。」
「...」
「...僕がどれだけ、傷ついたと思ってるの」
「...悪かった、でも、寂しいんだよ。ジュードが居ないと。」
「アルヴィン..。」
「ちゃんと、反省するから。側に居てくれよ..。」

ジュードの顔が見るのが怖かった。
あれだけ酷い事を言ったのに、側に居て欲しいなんて傲慢すぎる。
軽蔑されても仕方ない、自分を見るジュードの顔はきっと自分を悲観してる。

「アルヴィン。」

ジュードは俺の名前を呟いた。
そしてジュードの顔を視界に入れないようにそっぽ向いた俺の視界に入り込んだ。

「..許すよ、だって。やっぱりアルヴィンの事が好きなんだ。」
「...ジュード。」

心の開いた隙間にそっと、何かが満たされた気がした。
それはきっと、ジュードだったんだろう。





幸せになってもらった。
時系列的には「意地悪な~」→「正体Xの喪失」→本作ですね。

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