この発展したエレンピオスの街には金を持て余した奴と金を持ってない奴が居る。
昼間は活発な商店街も夜になれば静かになり、その変わりに路地の異質な店が賑わう。
俺はどちらかといったら"金を持て余した奴"だった。
ただ家が金持ちで、父親に財があり、将来もそれなりに明るい。
ただ、その分人付き合いも多くなる。
多ければ、自分が好まない人と付き合うのもやりたくない事もしなければならない。

「やっぱり、接待の食事の後と言えばここでしょう」
「あぁ次期当主様はまだ来られた事はなかったですよね、私が経営してる店なのですよ。」
「そうなのか。(あぁ、帰りたいな。)」
「クルスニクの槍の作戦が成功してから、異世界リーゼ・マクシアの女を沢山連れてきてから商売繁盛してますからね。」
「異世界、か。」
「この事は当主様には内密に。何にでもギブアンドテイクは付き物ですからね。その変わり次の政策では我が社が多く出資しますから。」
「あぁ、わかったよ。」
「さすがは次期当主様。今日も異世界人から連れて来た女が多く居ますから。朝まで楽しめますよ。」

あぁ、面倒くさい。と会話しながら何回思っただろうか。
クルスニクの槍の作戦が成功し、飛行船団が異世界から捕虜として沢山の人を捕獲した。
そのニュースは連日流れ、その話題でエレンピオスは持ち切りだ。

「次期当主様のお好みの子はいますかね?」
「あぁ、誰でも。」
「リクエストがないのもまた、難しい話ですな。では、今日捕虜としてやってきた女はどうでしょう。処女ですし、まだ男の体も知らぬ女ですぞ。」
「それでいい。」
「ただいま。では朝までごゆっくり。当主様によろしくとお伝え下さいね。スヴェント様」
「あぁ。」

脂ぎって小太りの商談相手、ここのオーナーと一室の前で別れを告げた。
赤い絨毯をヒールでコツコツと鳴らし前に進む。
本当は家に帰って温かいシャワーを浴びてお酒とタバコ、何より睡眠がしたかった。
溜息を付き、ドアをノックして部屋に入る。

「...!」
「...?!」

入ってみたら、体中傷だらけの女の子がベッドの上でブルブルと震えていた。
俺が部屋に入るとベッドの隅へ隅へと逃げて行った。

「なぁ、その怪我。」
「...」
「"捕虜"として捕まえられる時に負ったのか?」

何も言わずただ、首を縦に振った。
なんて軍は女相手に非道な事するんだ、と溜息を付いた。

「名前は、なんて言うんだ」
「...」
「安心しろよ。付き合いで連れてこられただけで別に犯そうだなんて考えてないし。というか、あんまり傷だらけすぎて良心が痛むわ。」
「...ジュード。」
「君、どう見ても子供だよね。たしか政策では18歳未満の女性は軍の学術機関に移送されるって聞いたんだけど。どう見てもまだ15歳?16歳?ぐらいだよね。」
「...僕...」
「何か訳ありなのか。」
「...」
「別に言いたくなければいいよ。」
「...精霊術が、上手く使えないんだ。」
「...そうか。」

エレンピオスの学会で日夜話題になっている異世界の精霊術。
捕虜の中でも男は労働へ、18歳未満又は精霊術に秀でてる者は学術機関へ。
それにすら入れなかった物はバイヤーへと売られてしまう。
学術機関では精霊術を今は研究してる為、必要なしと見なされてしまったのだろう。

「...」
「そんな絶望するなよ。」
「...何が、わかるの。僕の。」
「悪かった。」

ベッドの隅で踞る彼女は小さいし、幼い。
この先、待っているのは小汚い大人達に泣くように穢される毎日だろう。
そうなってしまったものは仕方がない。
そんなスタンスで生きて来た癖に、目の前で涙ぐむ少女を見ていたら良心が痛まない訳がない。

「...ねえ、貴族さん。」
「貴族さんっておい。」
「この先...僕はどうなるの?」
「...」
「言ってよ、大人達に毎晩、毎時体を求められて死ぬまで終わらないって。」
「...」
「もう、―にたい...」

そうなってしまったものは仕方がない。
他人に向かって諦めるように諭すいつもの言葉が出てこなかった。
出会って30分しか経過してないのに、こんなにも情が湧いて来る。
何故だろう、わからない。
指先で彼女の涙を絡めとって、客室の小型電話を手に取った。

『あースヴェント様。どうされました。女は気に入りませんでしたかな?』
「いやぁもう、最高だよ。」
『それは良かった。』
「もうこんな場所を用意してくれるオーナーには父さんにオーナーの市民ランクあげてもらわないとな。」
『やはり次期当主様は話が分かる。』
「ところでこの女だけど、こっそり連れて帰ってもいいか?マジで体の相性が良くて困ってさあ。報酬は弾むぜ」
『次期当主様がよろしければ、そんな女ぐらい差し上げますよ』
「ありがとな」

そう言って数点他愛の無い会話をして電話を切った。
これぐらいすればなんとかなるだろう。
次の政策が成功すれば出資者の市民ランクが上がるのはもう決定事項だった、問題はない。

「あの...」
「アルヴィンだ。」
「アル..ヴィン。今の...」
「目の前で泣かれたり死にたいだの言われたら辛いからな。」
「...」
「付いて来るか、それとも、ここに残るか?」
「...いくよ」

そう言って、ジュードの体に俺のジャケットを着せてこの風俗店から抜け出した。
まずはどうしようか。
とりあえず、薬局に行って手当をしよう。
それからジュードの話を聞こう。
そして俺の話をしよう。

26年生きて、ここに来て人生初の一目惚れをした男の話を。


『ボロボロ少女と金持ち男』





術儀に精霊術がないので精霊術が得意じゃないという設定で。←
まぁ、結局相思相愛になってラブラブイチャイチャになるんだろう。

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