「ねえ、ガイアス」
「なんだ、ジュード」

カン・バルクの城のガイアスの私室。
ただ広い部屋に必要な物しかない質素な部屋。
とても静かで、僕らの生活音しか響かない部屋。

始めは何かと喋ろうとしていた僕も、あまり口を開く事はなくなってしまった。
ただ、2人でこうやって並んで静かに過ごすのもとても心地が良い。

「ねえ、もしもだよ。」
「だからどうした。」
「僕が死んで国民が助かるのと国民が死んで僕が生きるっていう選択肢があったら。ガイアスはどうするの?」
「そんなの決まっている。」

"国民を守る"と惜しみもなく彼は言う。
僕の大好きな彼も大切な彼女もそういう人なんだ。

「嫌になるか」
「寧ろ、僕を助ける、なんて言った方が嫌だったな。」

僕はハーフであるけれど根底はラシュ・ガル人だ。
彼の"国民"という枠に僕は属さない、だから到底国民より大事に来る訳がない。
ましてや大勢の命と引き換えだとしたら、僕は第一に選んで貰えないだろう。

「そんな選択肢は無意味にすぎないがな」
「そうだね。そんな事あるわけないよね。」
「お前は生きるか、死ぬか、の二択しか俺に与えなかった。
 でも俺ならどちら共救える、その力がある。」
「ふふ、ガイアスらしいや」

そうクスリと笑ってガイアスの体にそっともたれる。
世間話なんてあまりなく、たまにこうして空想論で暇を持て余す僕とガイアス。
それが嫌な訳でも飽きた訳でもなく、ただこうして寄り添っているだけ。

「そうだ、僕、今日お菓子持って来たんだ。」
「なら茶を用意するか」

その語も特に話をする訳でもなく、ただ寄り添って居た。
大きな大きな戦いを超えて、喧騒な日々を送っていた僕らには必要な時間。
お茶菓子と空想論で腹を満たしては静かに流れる時間に身を任せる。

「ところで、お前は被虐性欲の気でもあるのか」
「どうして」
「書物で、普通の人はその質問をされたら迷わず自分を選んで欲しいと言うみたいだが」
「違うよ、ただそうやって大切な物を守るために躊躇う事も迷う事もないガイアスが好きなだけ。」
「変な奴だな」
「そうだね。」

茶を一口飲み干して、またガイアスの体に寄り添った。
世間一般では決して仲が良いとか、愛し合ってる、ラブラブだなんて言えないだろう。
ただ、寄り添うだけで幸せなのだからしょうがないと思うだけ。
ただ、それだけ。


『空想論と被虐性欲』





自分におけるガイジュってこんな感じ。
ただ、惹かれて憧れて一緒にいたいなと思うジュード君と、
長い戦乱の果てに落ち着きと安らぎを得たいガイアスと。

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