「なぁ、こいつなんなんだよ」
「そんなにすぐに分かる訳ないだろ。だいたいどこで拾ったんだ」
「拾った、んじゃねーよ。落ちて来たんだよ」


『天使の目覚まし方』


急に空に穴が開いて、降って来たのは羽の生えた少年。
よく絵本にある白い羽なんかじゃなくて、透明でキラキラした羽。
ジランドがクルスニクだのなんだかを空にぶっ放すのが見えてから数分の出来事。

「・・・」
「目、冷めたのか」
「・・・」
「おい、」
「・・・」
「...おい、バラン。これはなんだ。」

後ろを振り返ってみるが、バランは両手をぶら下げてしまっている。
少し、拾って来てしまった事を後悔した。

「飯、腹減ってないのか」
「・・・」

何を話しかけても反応はない。
まるで感情という概念を根こそぎ落として来たかのような反応。

「簡単に言うと、無機生命体なんだよ。」
「意味わかんねーよ。」
「んーでも、どうなんだろう。彼、寝てる時はほぼ、人間なんだよ。」
「羽しまってるからか、つーか"ほぼ"ってなんだよ」
「僕ら人間とほぼ一緒なんだけど、ちょっと違う。」

反応もなければ、笑う事も泣く事も起こる事もなく。
ただ、寝てる時に艶の良い髪を撫でると"ほぼ人間"という感性で若干微笑む。

「病気なのか」
「彼についてる、コレかな。寝ている間は機能してないみたいだけど」
「石なのか、これ。」
「これのお陰で彼の時間は止まってしまってる代償に、身体的機能が何個か働いていないんだよ」
「なんとか治せないのか」
「アルフレドがこんなに興味を持つなんて珍しいね」

珍しい、とは心外だとも思った。
ただ純粋な興味だった、どんな声で喋るんだろう、とか。
閉じた瞳孔が開いたらどんな風に俺を見上げるのだろう、とか。

「エレンピオスの技術が進歩してるからとはいっても、彼は感情を持ってすらないのに決めてしまうのか」
「失敗するかもってことか。」
「僕を誰だと思ってるんだ。...仮に、彼が目覚めたらどうするんだ」
「...」

興味本位で進もうとしている俺に年上のバランは聞いた。
俺すら、わからなかった。といったらなんて無責任になるんだろう。
ただ、見たかった。あの寝顔のような微笑みをもう一度みてみたかっただけ。

「時間はかからないよ、彼の付けている"石"の彼の精神を食んでる部分を無くすだけだから」
「あぁ」
「あの、泣き虫のアルフレドがね...」
「..さっさと、してくれ」


「....あ...」

目覚めた彼の第一声は煌煌と照らすライトの眩しさへの呻き。
ゆっくりと開かれる橙の瞳。

「...気分はどうだ」
「...ぼ...く....、は」
「んー、ゆっくりでいいから」
「ア...ルフレドさん」
「..ん、何で、俺の名前知ってるんだよ。」
「何も言えなかったけど、ずっと側に...居てくれたから」
「...」

高めの声で綴られる始めての言葉はとても恥ずかしいものだった。
柄にも無く一人の少年の側に寄り添ってた、という柄にも無い事をそのまま言われたからだ。

「ありがとう..僕のために」
「...別に礼はいいんだよ」

彼は神聖都市ウィルガイアという所に4000年も人形のように住んでた、らしい。
寝る事も食べる事もなく、ただ過ごしていたらしい。
とある日数人の人間達が入って来た時の騒ぎの最中で避難用のワープ陣に飛び込んだらこの世界に来てしまったらしい。

「元の世界に戻りたい、とかないのか」
「今は、ないかな...。」
「誰もおたくを知った人もいないのにか。」
「...うん、だけど、少なくともアルフレドがいるでしょ。」

そう、少年は寝顔で見たような微笑みで言っていた。
俺がもし自分の知らない世界に迷い込んでしまったら、どうなってしまうのだろうか。
仮定をしても仕方がない事だけれど。

「まだ、おたくの名前聞いてないんだけど」
「僕、はジュード。ジュード・マティス。よろしくね、アルフレド。」

そう背中の羽を凛々と羽ばたかせながら言う姿が俺達の世界から消え去りそうな精霊にさえ見えた。
この地上に舞い降って来たジュードと名乗る天使に恋していたと気づくのは後少し先の話。

「何、ジュード俺の事見とれてるんだよ。惚れたか?」
「ううん、僕が感情無かった頃アルフレドもずっとこうしてたじゃない」
「恥ずかしい事言うなよ。」





TOSの天使の状態って難しいよね。解釈orz
始めはモブ天使みたいな口調で無口じゃなかったんですけど、
なんかあんまりしっくりこなかったので無口にしてしまいました。

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