「おい、ジュード」
「...」
「おい」
部屋で読書に勤しむジュードに話しかけながら、近づくも声が帰って来る気配はない。
前は邪魔と思う程俺を気にして声をかけていたはずなのに、と回想をする。
今日も―変わり無し。
『無限回廊と狂った時計』
「...っ、おい!!」
「..誰。」
目の前から急に居なくなって、横腹を殴られ顔に本の角が直撃する大惨事。
その反撃を交わす事なくその手をつかみ取る。
「俺だよ、優等生」
「...!!アルヴィンなの?」
「...あぁそうだよ。」
「そうなんだ、僕読書してて。あれ、アルヴィン顔怪我してるよ?」
「気にすんなよ。」
「...うん?」
言葉が噛み合なくなって、1ヶ月弱ぐらい。
今のジュードの状況に理解できるようになって2週間とちょっと。
「ジュード」
「...」
自分の名前にはまったく反応しなくなってしまった。
それの元を正せば、原因は自分にあるのだが。
「...優等生」
「なに、アルヴィン。」
逆に"優等生"と呼べば、自分が呼ばれたと理解するようになった。
それには一つ付属があって、
「だから、何。アルヴィン」
"優等生"と呼ぶ人物を全て"アルヴィン"だと思考してしまう事だ。
ちなみに俺は、出会ってから彼を裏切るまでの間は彼の呼称を"優等生"と呼ぶ事が大半だった。
ジュードをあからさまに避けて、卑下して挙げ句の果てには苛立って暴行してしまった時には"優等生"ではなく"ジュード"と呼称していた。
「優等生はジュードの事なんだけどな」
「なんのこと?」
「優等生は俺と今までの事覚えてる?」
「覚えてるに決まってるよ。アルヴィンが、ラ・シュガル兵から僕を助けてくれて、知らない事いっぱい教えてくれて、僕の料理を美味しそうに食べてくれて!!」
「最近は?」
「カラハ・シャールの街大きくて、アルヴィンがまたいろんな事教えてくれて...じゃないの?」
ジュードが"最近"といった事からもう今までではだいぶ日が経っている。
彼の中の"優等生"と"アルヴィン"の記憶がそこで止まってしまってるからだと思う。
あの場で俺はクレインに情報を売り、売った事についてジュードに泣きながら問いつめられ信じてるのにだのなんだの言われて。
それが疎ましくなって暴行して、―してしまったのが原因だろう。
「もう、アルヴィンさっきからどうしたの?」
「なんでもない。さっさと寝ろよ、優等生」
「??うん、」
床に落ちた本を机の上に置いて、ジュードに布団を掛けてしまう。
"おやすみ"といって柔らかい前髪をそっと撫で下ろす。
"いやぁぁぁああああ"、アルヴィ、なん!!いやぁぁっ"
"僕が、僕が、僕が悪かったから!!ああぁぁああああ""
"ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ"
ジュードの寝息が悲鳴に変わるのは前髪を撫でてから数時間後の話。
起きてる時とは打って変わって、ここの俺は"あの時"の俺らしい。
"近寄るな""触れるな""俺を見るな""話しかけるな"散々暴言を吐いた挙げ句、煩い口のある頭ごと壁に押し付けて、首を締めて、下半身を暴いた俺。
「優等生....ジュード、ごめんな」
「ああああああああ"」
ジュードがこうなって、背負った業はとてつもなく深かった。
普段は気にもしない罪悪感が俺とジュードを繋ぎ止めてしまった。
今になって、あのお人好しのジュードが良かったなんて呟くのは許されないのだろう。
「優等生」
「なに、アルヴィン」
だから、せめて壊れた君の側にずっと居よう。
嘘つきみーくんと壊れたまーちゃんパロ。
アル←ジュ前提でジュードがうざくなっちゃったアルヴィン前提的なの。