「愛すら金で手に入る」

そう言った男を僕は可哀想だと思った。
この人は本当の愛をしらないんだ、と思った。
といっても僕も身を焦がすような愛は知らないけれど、もっと綺麗なはず。

「なんでお金が全てなの?」
「金があれば、愛さえ手に入る。こうやって美しい人も抱ける」
「醜い話だね、愛はもっと純粋で清らかだと思うよ」
「確かにそうだな。でも金が全て、は間違ってないと思うからな」
「...そうなんだ。」
「そんな事言うなよ、金があるからこうして守られてる。」

父親の病院を買収しておいて、守る、とは結滞な事だ。
彼に『Shall We Dance?』と声を掛けられてから僕を取り囲む状況は変わった。
厳格な父から貰う小遣いからでは買えないような高価なドレスや宝石を身につけるようになった。
でもこの男は自分だけではなく他の女性にも沢山のプレゼントをしている。
たしかに愛は金で買えるが、それは安い愛だ。
そんな安い愛で満足し愛を語る伝道師にでもなったかのような男に可哀想、としか思わなかった。

「なかなか落ちないんだな」
「だって、そんな安い女じゃないから」
「じゃあ、何が欲しいんだ。」

どうせなら、貴方が金に裏切られて動揺して独りになってどうしようもなくなって僕に泣きつく貴方が見たい。
なんていったらどんな悪女なんだろうか、僕は。
そうしたら安い愛なんて全部なくなって、僕だけがアルヴィンを愛してあげられるのに。
そんな事はスヴェント家の世界における位置づけを考えたらないだろう。
だったら、せめて困らせるぐらい手に入れるものが難しいものをお願いして他の女の人がせがむ物なんて可愛く思えるくらいの物を...

「言ってみろよ、金ならいくらでもある」
「じゃあ、」

昔、母さんに読んでもらった本の中に出て来たとある物を思い出した。

「青い薔薇がみたいな」
「おいおい、青い薔薇ってなんだよ」
「お金ならいくらでもあるんでしょ?」
「そんな要求した女、今までにいねーぞ」

そう言って頭をかくアルヴィンに少し微笑んだ。
だって、あれは幻想の中の産物だから、と。
貴方が恥ずかしながら話した絶滅した黄色いクローバーよりも手に入れるのは不可能。

「また、ただの薔薇を絵の具で塗って青くしてくれるの?」
「茶化すなよ」
「お金、ならたくさんあるでしょ?」
「ここまで手間掛けさせた女、他にいねーぞ」
「いいでしょ。可哀想なアルヴィン。」

ベッド際でタバコに火を付けるアルヴィンの背中を一撫でして言った。
僕より11歳も上の癖に大事な所がいくつも欠落した男に同情すら覚えた。


「バランさん。最近、忙しいみたいだね」
「なんかアルフレドが、研究所に居座ってなかなか研究が進まなくてね」
「アルヴィンが?」
「なんか、花の品種改良に励んでるみたいだよ。珍しい事もあるもんだね」
「そう、なんだ」

父の病院の技師であるバランはアルヴィンの従弟である。
技師と言っても病院で使う器具を発明しては病院に売りつけに来る、が正しいと思うけど。

「なんでも、おかしな女の人に頼まれたみたいだよ」
「そう、なんだ」

おかしな女、そんな言葉に僕は少し顔が綻んだ。

「ジュード。」
「アルヴィン?」
「ほら、これ。」
「青い、薔薇だね。」
「悪ぃ、時間かかっちまった。」
「じゃあ、次はこれをこのままに髪飾りにして」
「まだ、無茶言う気かよ」
「だって、お金ならなんでもできるでしょ」

嘲笑うかのようにそう言ったら、アルヴィンは花を僕の手から取ってどこかへ消えて行った。
"あの方向は研究所"、なんでも金で買えると豪語した男とは思えない程余裕がない。
それから数週間が経って、社交界へこっそり行ってアルヴィンの様子を伺う事にした。

「アル、今度はサファイヤの指輪が欲しいわ」
「安いな。」
「じゃあ、ダイアモンドはどう?」
「それも安いな。それに、お前には似合わないぜ。」
「酷いわね。」
「つまんねーな。どの女も。...あの女は例外か。」
「ちょっと、アル、何処いくのよ!」
「秘密。」
「まだ、始まって10分しか経ってないのよ」
「社交界には出ろって親父が煩いから、..じゃあな」
「もう、最近付き合い悪いわね!もう知らないわ」

その会話を聞いて僕は満足して社交界から足早に去った。
あの女と金に盲目な男が、僕の世迷い言に苦労して女と金すら蔑ろにする姿に非常に満足した。

「..ほら。」
「うん、よくできてる。体から出るマナを花の栄養素にして状態を保ってるんだね」
「...」
「アルヴィン元気ないみたいだね、女漁りも金遣いもやめたから?」
「さあな。」

疲れ切ってるこの男は髪飾りを僕に渡してベッドに寝転んでしまった。

「一流のドレス、高価な宝石、..その髪飾り。全部くれてやった。」
「うん」
「次は何がいいんだ。なんでも言ってみろよ。"金"だけは沢山あるからな」
「じゃあ、アルヴィンの愛が欲しい」

寝転ぶアルヴィンにそっと添って耳元でそう呟けば、アルヴィンは顔をほんのり赤くしていた。
そんなアルヴィンの顔を見ていたらアルヴィンと目線が合い視線を思わず外してしまった。


『Noble Eyes』


「このお話はまだ人に愛されたことのない男性の悲しいお話。」





何故、続いた。と思った。←
なんかこう、小悪魔にしたくなるよね!←
なんか髪飾りの設定が某学園都市のジャッジメン!を思い出すね。

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