父と母の面影を追って再び僕はこの場所に帰って来た。
父と母が働いていたこの治療院が僕の人生の新たなスタートラインとしては最適な環境だった。
その最適な環境にアルフレドはやってきて、花を添えた。
窓辺に咲く花達に見守られながら僕とアルフレドはまた進んで行くのだろうと思っていた。

『無窮メランコリー』

その門出の日にあの男は現れた。
その男は自分は義理の叔父だと名乗り、一方的に言葉を吐いた。
義父の遺産は義理の叔父、アルフレド、そして僕に継ぐと義父が言っているという事。
義理の叔父はそれが気に入らないという事。
だから全てを忘れて欲しいという事、義父が忘れてしまう程にスヴェント家に近寄らない事。
それが出来なければ、片方の命はないという事。

一方的な物言いが気に入らなかったが、その義理の叔父が持つ銃は飾りではない事はなんとなく理解できた。
だから僕はジュード・マティスとして生き、医学校に行くまで通っていた学校の事もあの屋敷で生活した事も忘れる事にした。
僕は僕自身と彼を守る決断を下した。

「僕はジュードです。マティス治療院の院長のジュード・マティスです」

僕は二度目に訪れた彼に向かってそう言葉を吐いた。
まるで初対面のように。
そうすると彼は表情を歪め、花束を落として僕の目の前から消えた。

「迫真の演技だったな、院長様」

狭い診察室に男の乾いた拍手と笑い声が響き、非常に不快だった。
しかし彼は僕の演技に満足したようで、高らかに笑いながら治療院を出て行った。

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