一年前のあの日、ワイバーンがカラハ・シャールに落ちた日。
あの日俺達はどうしようもなく吐いてきた嘘と隠してきた気持ちを吐き出した。
そしてその嘘吐き達の言霊は俺とジュードを結びつけ、それは一年たった今でも変わる事はなかった。

変わる事がない俺達の想いとは裏腹に俺達を取り巻く環境は一日一日と変化し、ジュードがあの特急列車に乗ったあの日から物語は急速に展開した。
気がつけばルドガーやエルといった新しい仲間と顔なじみの奴らと再び旅に出ていた。
分史世界を破壊する旅に――。

「ねーねールドガー。次の進入点ってル・ロンドなんでしょ? ジュードやレイアを連れて行けばわかりやすいんじゃない?」
「悪かったなジュードやレイアじゃなくて」
「まぁ、アルヴィンもそれなりに詳しいだろ? 頼りにしてるから」

ヴェルからのメールを見ているルドガーとエルの会話に聞き耳を立てれば次の進入点がル・ロンドだと知った。
タイムファクターの最大の特徴である正史世界との一番違う事を探すには土地感があるジュードやレイアが居た方がすぐ終わるだろう。
誰が考えてもすぐ結論に辿り着く答えを口にするエルに悪態をつけばルドガーが間髪入れずにフォローを入れた。
そしてそのフォローの言葉を吐き切る頃には座標を合わせ、俺達の身体を分史世界のル・ロンドへ飛ばした。

「ついたか……」
「じゃあまず聞き込み調査だね!ルドガーとエルはあっち行くからアルヴィンはあっちを聞いて回ってね!」
「へいへい。まぁ、何かあったらGHSで連絡するぜ。……今回は人数少ないから戦闘だけは勘弁して欲しいな」
「なんとかなるだろ。じゃあ連絡くれよな」

そう言ってルドガー、エルとル・ロンド海停で別れエルが“あっち”と指を刺した住宅街へと向かう。
海停から住宅街へとまっすぐ進み右手にはジュードの自宅兼治療院があって、その少し先にレイアの自宅兼宿屋がある。正史世界とは何一つ変わらない。

「――だから、――って治療しようね。――悪くなったら、すぐママに言って――」
「うん! わかったよ、ジュード先生!」
「うん、偉い偉い。気をつけて帰ってね」
「はーい! じゃあね、先生!」

マティス治療院を通り過ぎようとした時の事だった。
長い黒髪の白衣を着た女性が、小さな男の子と会話をしていた。
その小さな男の子は“ジュード先生”そう言った、彼女はこの世界のジュードなのだと俺は悟った。

「今ので最後の患者さんかい」
「うん、そうだよ」
「じゃあ今日はここまでかな」
「そうだね、病院内を片付けたら今日は沢山料理を作ろうかな」
「それは楽しみだな」

小さな男の子がマティス治療院から立ち去ると同時にマティス治療院からジュードより少し年上ぐらいの白衣の男が出てきた。
物陰に潜みながら二人を見ていると、白衣の男はジュードの腰に手を添えながら二人でそんな会話をしていた。
その様子を見て俺は二人は結婚しているのだとなんとなく理解した。
理解するのと同時に胸がモヤモヤするような気持ちになった。
別人だとわかっていても、同じ姿で俺ではない男の傍で居るジュードを見るのが辛かった。
カラハ・シャールで見たウィッグを付けたジュードに瓜二つの顔であんなに幸せそうに微笑む姿を見るのが辛かった。

ここは一つの可能性の世界。
俺が居なくてもジュードはあんなにも幸せそうに笑う。
それがなんだか悔しく思えた。
そう思うと今すぐにでもジュードの所へ行きたい、そう感じた時だった。
分史世界特有のくすんだ色見が消えて、正史世界へと戻っていた。そしてポケットに突っ込んだGHSがけたましく鳴り響く。
大方ルドガーなのだろう、おそらくは自力でタイムファクターを見つけたからとかそういう話なのだろう。
俺はGHSの着信に応答する事なく切ると、再度ポケットに突っ込みジュードが居るヘリオボーグ研究所に向かうために船に乗船した。

「どうしたの? 今日はルドガーの手伝いって……ア、アルヴィン?!」

ル・ロンドからイル・ファンに向かい、イル・ファンからマクス・バード、マクス・バードからトリグラフ、トリグラフからヘリオボーグと移動を繰り返しジュードの居る研究所に着くなり俺はジュードの身体を抱きしめた。
そんな俺の態度にジュードは驚きを隠せないようで俺の腕の中で動揺している様子だった。
俺もジュードに抱きつくとかそういう事をしようとかは思っていなかった、きっと度重なる移動時間のうちにジュードへの悶々とした気持ちが募りそうなってしまったのだろう。
唯一救いなのは動揺しているだけでジュードは俺の事を突き放したりしない事だろう。

「悪いジュード……もう少しだけこうさせてくれ」
「いいよ……。……どうしたのって聞いたら教えてくれる?」
「……分史世界でお前が医者と結婚してるような姿を見たんだよ。幸せそうに笑ってた。……でも思い返せば俺はジュードや他の奴らを苦しめるような事ばっかりしてたからなんか悔しくて、俺じゃジュードに不相応なんじゃないかって思ったりもしたんだよ……。なあ、お前は俺と居て幸せか?」
「本当、アルヴィンは馬鹿なんだから。……僕はアルヴィンが好きだからこうしてアルヴィンの中の腕の中に居る、好きな人の腕の中に居られるのが幸せじゃない人なんて居ないと思うよ。それに僕はアルヴィンが見た世界の僕はどんなに幸せでも僕は今の僕が進んだ道を選ぶよ。アルヴィンに出会うために、嘘を吐くよ」
「幸せ、なんだよな」
「……うん、とっても」

腕の中に収まるジュードの頭をくしゃりと撫でると髪の毛の良い匂いが鼻を掠める。
その香りの心地よさと、ジュードの言葉によって不安で満ちた心は安心に満ち溢れると共にひとつの欲求が湧いた。

「ジュードの身体柔らかい、髪の毛も良い香りがする……今すぐにでも抱きたくなる」
「ちょっと、ここ、研究所だよ?!」
「わかってる、バランが学会に出てて今日は戻ってこないとかマキちゃんったっけ? あの子が休みなのもわかってる」
「そういう意味じゃなくって……っ」

ああだこうだと騒ぐジュードの頭を上に向かせ、反論を唱える唇を塞げばジュードは腕の中で大人しくなっていった。
ジュードの事を幸せにしたいと言いながらも、肉欲に負けてジュードの身体を暴こうとしているのは矛盾なのだろうか。
でも仕方がない、ジュードが好きなのだから。

「駄目?」
「……持ってるの?」
「あぁ、ちゃーんとな」
「……わかったよ」

ジュードの了承を得て、ジュードの額にキスを落とす。
そして唇に再度キスを落とし、僅かに空いた隙間から舌を入れて絡めるとジュードの体温、心音が上昇していくのを身体で感じた。
感じたままにジュードの衣服に手を伸ばしTシャツ越しに胸を揉むとジュードの口からは小さな吐息が漏れた。
その反応を可愛らしいと思いながらもTシャツを胸の上までたくしあげて口付けで潤った唇で乳首を咥え舌で軽く舐めるとジュードの口からは再度小さな吐息が漏れた。

ルヴィン……」
「ん……? なんだ?」
「立っての辛いから……ソファーに……」
「あぁ、悪いな。たしかにこの姿勢は辛いよな」

俺は愛撫を中断してジュードの身体を持ち上げソファーへと移動した。
顔を真っ赤にするジュードの頬を一撫ですると、ジュードは小さな声で『恥ずかしい』と漏らした。
それすらも可愛いとさえ思えたがあえてその言葉には触れずにジュードのズボンに手を掛けてひざ下へとずらした。

「胸触られるの良かったか?」
「……」
「だってこんなに濡れてる」
「……!」
「ぬるぬるした指でココ触られるの好きだよな? あぁ、こっちの方が好きだったか」

濡れた人差し指で陰核を撫でるとジュードは小さい喘ぎ声をあげた。
そしてすかさず親指をジュードの膣内にゆるゆると解しながら挿入すると甘い声で鳴いた。

「アル、ヴィンっ……あ、んまり構われるとわけ、わかんなくなっちゃ……」
「好きなだけイったっていいからな。その分俺も後から頂くし」

ジュードの鳴き声に下半身が否応なく反応するが堪えて、ジュードの肢体を快楽に落とす事だけを考えた。
膣内が親指だけだとゆるゆるになるまで解すと膣内から親指を抜き、人差し指と中指と薬指を挿入してバラバラに動かしながらも親指で軽く陰核を擦るとジュードの身体は電撃が走ったようにビクりと震えた。

「っ……も、う……」
「もうダメは無しだからな?」

ジュードは体を大きく揺らしながら大きく呼吸を繰り返すと『もう』とそう言った。
俺はその言葉の続きが『もう出来ない、もう無理』そう思いジュードにその言葉を言うとジュードは、蜜蜂色に目を潤わせて言葉を返した。

「違う、よ。……早くアルヴィンのちょうだいって……」
「誘ってくれてんのか?」
「……そうだよ、自分の方が相手の事を好きだって思ったら大きな間違いだよ」
「じゃあ、遠慮なく」

俺はジュードの身体から指を引き抜くとスーツのポケットに入れておいたコンドームを取り出してビニールを破きズボンのチャックを下して性器を露出させて装着した。
はち切れる程に膨張した性器をジュードの性器に近づけると、ジュードが心配そうな顔をして俺を見ていた。

「どうしたんだ?」
「いや、ちょっと いつもより……」
「そりゃあ可愛い挑発を貰ったからな」
「そ、そういう問題なの……?」
「そういう問題なんだよ、じゃあ入れるぞ?」

膣の入口に性器を押しつけるとジュードの身体はビクリと震え、緊張しているのが嫌な程伝わってきた。
俺はジュードの緊張を解そうと体のあちこちに触れ、最後に髪を撫でるとくすぐったく感じたのか身体に力が無くなっていた。
その瞬間に俺はジュードの中に身体を推し進め、ゆっくりと腰を下した。

「ぐっ……」
「やっぱ、きっついな。もっと力抜けよ、さっきみたいに」
「んっ」

やっとの思いで収めた性器を最奥に留め、俺はジュードの全身を強く抱き締めた。
するとジュードも俺の背中に手を添えて優しく俺の事を抱きしめていた。
その仕草が可愛くて、好きでたまらなくて、苦しそうな表情をするジュードの唇に再度キスを落とした。
もうどれが誰の唾液で愛液なのかさえもわからない程に絡み合ううちにジュードの身体も次第に質量に慣れ、動かせる程のゆとりを感じた。

「じゃあ、動くからな」
「ん……」

ジュードにそう告げ、了承を得られると俺はゆっくりと腰を動かし始めた。
俺の動きに合わせてわずかながら腰を揺らすジュードの仕草をまた可愛らしく感じ、声には出さずに口元でニヤリと笑い腰の動きを速めた。
そうしていくうちにジュードの膣内が狭まってくるのを感じて共に果てようと思い、更に腰の動きを速めるとジュードの口からは止めどなく吐息と喘ぎ声が漏れてゆく。

「ア――ン、も、うっ……!」
「あぁ、俺ももう限界だ……っ」

身を捩じらせて互いに熱を放ち、高ぶる体温と心音を密着する肌で感じながらジュードの顔を見ると穏やかな表情をしていた。

「……なんか、こんな所で盛って悪いな」
「今更すぎるよ……」
「だよな」
「ねえ、アルヴィン」
「なんだよ」

乱れた衣服を直しながらジュードは俺の名前を静かに呼んだ。
換気扇が轟々と響く音がやたらと大きく聞こえた気がした。
その音に混じってジュードは小さく言葉を続けた。

「その分史世界の僕より、僕を幸せにしてね。アルヴィン」

そう言ってジュードはあの分史世界のジュード以上に微笑んでいた。


『嘘から始まる物語』

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