『ボロボロ少女と金持ち男』のバッドエンド版です。アルヴィンが訪れる前にモブに処女を奪われモラルが崩壊したジュード君の話。最後にアルヴィンが出てきます。

僕の人生は十代半ばで崩壊した。
イル・ファンの漆黒の空に一筋の光が射し、何隻もの戦艦に襲われたこの世界は猶予もなく崩壊し僕たちは戸惑うことしか出来なかった。
目覚めた時には家畜のように部屋に押し込まれ、貯金をはたいて購入した一張羅からみすぼらしい白色の衣類を着せられていた。
胸に付けられていた名札には自分の名前など書いて無く、番号が振られていた。
この瞬間に僕はもう人間ではないんだ、そう悟った。

「この装置を起動してみろ」

番号を呼ばれ、声の主の元に行けば一つの機械を差し出してそう言うのだ。
おそらくこれはマナを使い起動する機械の一種なのだろう。
普段やらないけれどこれぐらいなら僕の精霊術でも機動する事が出来ると思い、両手を差し出した。

「……またか。お前はあっちの廊下を進め」

結果は失敗だった。
そういえば空が裂ける前に精霊術が失敗して怪我をする人が少なからず居た、きっと今のもそれと関係しているのだろう。
そんな事を思いながら僕は指示された廊下をただ一人進んでいった。

「ほお、薄汚れているがなかなかの上玉だな」
「……」
「お前はリーゼ・マクシア人の癖に精霊術も使えない役立たずだから政府から売られたんだよ。それを俺が買ってやるっていうんだ。わかったらそこの馬車の荷台に乗れ」
「売られた……役立たず……?」

廊下を進むと眩しい日差しの下に出た。
開かれた世界に歩みを止め、外を見渡すと一人の男が僕に近づいてきてそう言った。
その男が言った言葉は限りなく真実で、残酷なものだった。
僕は使えない役立たず、売られた。その事実だけが色濃く僕の脳裏に焼き付き心を穢してゆく。

そして僕はその男に連れられてネオン輝く一軒の店に着いた。
これは風俗店ではないか、そう感じた時、僕の身体は強張り進むのを止めてその場で立ち尽くす。
そんな僕を僕を買った男のガードマンは不満に思ったのか僕の頬を殴った。

「っ……痛い……」
「もう一回殴られたくなかったらさっさと歩け」

僕は痛む頬を抑え、再び歩き出した。
そう僕は人間ではないんだ、奴隷なんだ、家畜なんだ、そう思わせるのには十分すぎる程の行為だった。

「まぁ、このドアが開いたらその男を気持ちよくすればいいからな」
「どういう……」
「ああ? こんな店でやる事は一つしかねえだろ」
「意味がわかりません……」
「すぐにわからせてやるよ、嬢ちゃん。おっと、俺はこの後社交界があるんだお前なんかに時間を割くわけにはいかない」

男を気持ち良くすればいい、わからない事ではなかった。
けれどこれから起こりうる事を思えば、わからないままで居たかった。
僕はもうすぐ知らない男に穢されて、泣かされて、しかもそれが一生続くのだと思うと涙が溢れてくる。
しかしその男は僕の涙など気にもせずに僕を置いてドアから出て行った。

僕はこれからの事を考えると恐ろしくてベッドの上でただ蹲る事しか出来なかった。
僕が一体何をしたんだ、何でこんな事になったんだ、負の連鎖だけが続いていた。

「おー、お前かぁ。今日入った新人っていうのはよ」

しばらく時間が経ったのち、ノックもなしに扉が開かれ見知らぬ男が一人入ってくる。

「……」
「高い金を出したんだ、せいぜい楽しませてくれよ」
「……い、やだ……」
「あん? 俺の話が聞こえなかったのか。お前は既に俺に買われてるんだよ。わかったらさっさと股を開けよ」
「嫌だっ! やめてっ! こ、来ないで!」

はじめは機嫌よく入ってきた男も僕の抵抗に気を悪くしたのか、ベッドに居る僕に詰めより僕の肩を掴みベッドに押し倒す。
怖くて、嫌だ仕方ない行為にその男を引きはがそうとすればその男の怒りは頂点に達したのか僕の頬を殴った。
二度目の暴力に動揺し抵抗の力を無くした僕を嘲笑うように男は僕の身体をベッドに倒した。

「そうやって大人しくしてればいいんだよ、オーナーから聞いたけど精霊術が使えないリーゼ・マクシア人なんてエレンピオスにはいらねえんだよ。渡航費用の無駄。ただでさえ作物が育たなくてエレンピオス人を賄う事もできてねえのに。お前の居場所はここにしかないんだよ。それを俺が教えてやるよ」
「……いらない……?」
「あぁそうだよ。元より異界炉計画なんてリーゼ・マクシア人を人間だとすら思ってない計画なのに精霊術も使えないなんて人間以下の更に下。働く所と飯が出るくらい感謝して貰いたいぐらいだがな」

男の言葉に絶望した僕はただ、人形のように男になされるがまま穢されていった。
ざらついた男の舌が僕の身体を舐めても、胸を痛いぐらい掴まれても、誰にも見せたこともない下半身を暴かれても抵抗する気が起きなかった。

「静かなのもつまんねえなあ。おい、入れちまうぞ」
「……入れれば、どうせ何したって変わらないんでしょ」
「随分と物わかりがよくなったもんだな、じゃあ遠慮せずにいただこうかな」
「……」

男は僕の両足を持ち上げると昂った熱を僕の秘部に押し付け、狭い中を開くように進んでゆく。
その痛みを逃がすように歯を食いしばり、ベッドシーツを握りしめる。
男の先走り液と僕の体液が混ざりあい卑猥な音が耳ざわりでしかないが耳を塞ぐ手段を今の僕には持っていなかった。
ただこの行為が早く終われとベッドシーツを握りしめ、痛みを耐える事しか僕には出来なかった。
その行為がしばらく続くと男は満足したように精液を吐き出し、満足気な表情を浮かべ煙草を吸い始めた。

「言っちゃ悪いけど、これが現実なんだよ。でもここに居れば金と居場所は貰えるんだ。いらないお前だって肉欲の糧に必要として貰える」
「……」
「客の機嫌とって持ち帰りにでもしてもらえるかもしれない。それにそれが金持ちの男だったらこんな所に居るよりずっと楽しい生活かもしれないな。だんまりなのも好む男がいるかもしれないけどな」
「……何を喋れっていうの? 僕は何一つ悪い事なんてしていないのに、何でこんな……」
「言っただろ? これが現実だ。そう思うなら男を誘惑して騙してみろ。良い女を演じろ。そうしたらお前を救ってくれる奴が来るかもな、んてな」

男は煙草を吸いながら僕にそんな話をした。
痛む腰を忘れるほどに僕はその男の話に心惹かれてしまった。
――名前を奪われ番号で呼ばれる自分を必要としてくれる。
――役立たずと売られた自分を必要としてくれる。
――人間以下と称された僕を救ってくれる。
そんな人が居るかも知れない、そんな希望が見えたような気がした。
なら、僕はあの男の言うように男を誘惑して、騙して、イイ女を演じようと思った。


***


「お前、あの時の女だよな? なんか随分頑張ってるみてぇだな。指名料が上がってて驚いたぐらいだ」
「男を誘惑して、騙して、イイ女を演じろって言ったのは貴方でしょう」
「へえ。なんなら俺が持ち帰ってやろうか」
「嫌だよ。だってお金持ってないんでしょう?」
「持ってなかったらこんな所来ねえよ」
「違うよ。僕を救えるだけのお金だよ」
「随分と言うようになったな」
「僕はね、こんな国どうにかなるぐらいの権力を持った人に持ち帰られたいんだ。それで僕を僕が望むところに連れて行ってもらう。それだけの力とお金を持つ人じゃないと僕をあげたりなんかしない」
「そうか。ならお前にひとついいことを教えてやるよ。この前の社交界でオーナーが名家の子息とお知り合いになったそうなんだ。もしかしたらそいつがお前の元に来るかもしれないって事を」
「そんな人が僕の所に?」
「お前が誘惑して騙してイイ女を演じた結果じゃねえか。今晩ちゃんと俺の相手が出来たらいい情報をくれてやるよ」

男とそんな会話を交わして、性欲を貪る。
以前のように人形のような自分ではなく、誘惑して騙してつくった売春婦の自分として。
望みの為に僕は“望み”以外の全てを捨てた、そうすれば“望み”が叶うと信じていた。

そんな僕にも“望み”を叶える為のチャンスが訪れた。
あの男が言っていた名家の子息が僕の元へやってくる。そうオーナーが言っていたのだ。
名家の子息はアルフレド・ヴィント・スヴェント。
権力と財力、両方ともに持っているのだろう。
僕はその男に期待を寄せ、部屋で待っていると部屋のドアをノックする音が聞こえる。

「入るぞ」
「……はい」

僕はベッドの上から控えめがちな声を出した

「……」
「そんなに怯えてどうしたんだ?」
「……僕、リーゼ・マクシアで捕虜で捕まったんだ。……だけど精霊術が使えないからここに身売りされちゃったんだ。……僕、これからどうなるの……? 偉い人なんですよね……教えて下さい……」

僕は精一杯甘えた声を出した。
そしてその男は僕に近づき、僕の身体を抱きしめ「なんとかしてやる」とそう呟いた。
その呟きに笑みがこぼれるのを堪えて悲観を演じた僕をあの男は嘲笑うのだろう。

『今度の名家の子息は異界炉計画に反対しているみたいだから、傷つきボロボロな少女を演じてみろ』

男が残したいい情報は僕にチャンスを与えた。
そして僕はそのチャンスをものにした。
僕は僕を抱きしめる子息の男の顔をじっと見て、涙を流し「ありがとう」と小さく言った。
その心は勿論、高らかに笑っていた。


『ボロボロ少女は二枚舌』

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