本編通りの結末を迎えるリドウのお話です。
僕は今、マクスバードから見える魂の橋があった場所を見ていた。
ユリウスが架けた橋のその向こう、あの男が架けた橋をただ眺めていた。

今思えば精霊の化石はあの夜に手に入っていたのだから、あの男の行為を警察にでも言えば良かった。
傷害罪、暴行罪、脅迫罪、強要罪、強姦罪あらゆる罪を彼は犯したのだから。
当時の僕はそんな事を思わず、彼から連絡があればその身体を彼に売りに行っていた。
手酷い行為が行われるとわかっていたのに。本当に馬鹿だったと思う。

彼の行為で僕は血を流す事が多かった。
何度か行為を繰り返して血を流す事はなくなっても、リドウは噛み付いたり爪を立てたり性器ではない異物を僕の中に入れて出血をさせた。
どちらかと言えば僕に傷を付けたという方が正しいとも思った。


リドウと過ごした48回目の夜の事だったのだろうか。
その晩も僕は酷く残虐な行為を強いられていた。
それを彼はいつもと変わらず嘲笑う様に僕を恥辱しては僕を傷付けていた。

「なあ、Dr.マティス。この世界がどんなに残酷なものかわかるか」
「貴方がいなければ、もっと残酷じゃなかった」
「それは君の世界の話だろう」
「……僕だけじゃない、貴方は……」
「人間になったミラ=マクスウェルを消した。そう言いたいのか」

僕は彼の問いに静かに頷いた。
いかに世界が残酷なのかをこの男だけには言って欲しくはなかった。

「分史世界の自分を見た事があるか」
「……僕はない」
「今まで俺は何個も時歪の因子を破壊しに分史世界へ行った。けれど俺は俺の姿を見た事がない。自分を見つける事が目的になっていたかもしれない。けれど俺は分史世界の自分に会う事ができなかった」
「……」
「……たまたまこの世界の少し進んだ分史世界へ行った時だ。街を歩いていたら俺の部下がまるで化け物をみたような反応をしやがった。だから問いつめた」

-リドウ局長はビズリー社長がカナンの地へ行く為の魂の橋となりました-

「怯えるそいつはそんな事を言いやがった。そいつは俺の身体の中に埋め込まれた黒匣を停止する機械をビズリーから渡されていた。……もちろん分史世界を破壊する前に殺した。でも俺はただじゃ殺さなかった。いつ何処で俺が魂の橋なんてクソみたいなものになるか順番に言わせた」
「……」
「時期はもう迫っていた。俺は必死に俺の黒匣を制御する機械を探した。けど無かったんだ!俺はどんな結末でもこの世界に最後まで居る事はできない。……これを残酷と言わずに何と言う?」
「……だからといって、貴方があんな事をしてもいい理由にはならない」
「随分と言ってくれるじゃねえか、Dr.マティス」

リドウは怒り、僕の首へと手をかけ力を込めた。
僕は抵抗する事も、その手に手を伸ばす事もなく彼を蔑む様に見ていた。

「分史世界の部下が言う事がこの世界でも起これば俺は明日、消える。お前の身体には俺が残した傷が数え切れない程ついている。その傷を見る度に俺の悪逆を!非情を!残酷さを思い出せ!」
「……」
「払う事が出来ない100万ガルドを悔しく思え、借りを作ってしまったと嘆け」
「……うっ」

リドウは僕の首を離すと、僕の身体は床に崩れ落ちた。
そしてリドウは一人静かにこの部屋を去って行った。


そんな事が数日前にあった。
ユリウスが架けた橋とは違い、すぐに消失したリドウの橋。
僕に傷だけを作って消えたリドウ。

「あの日の夜にルドガーから聞いたんだ。分史世界で貴方を見たって。良かったね、生存している世界があって。だからもう貴方に借りを作らない」

身体の傷は治癒術でもう完治した。貴方の痕跡は僕にはない。
そして僕はマクスバードの風に100万ガルドの札束を乗せた。これでもう借りはない。

『さようなら、可哀想な人』

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