仕事に没頭した一日を終え、自宅に戻りキッチンに立って夕食の準備をする。
少し前にアルヴィンが置いて行った祖国の果実を切りつつ物思いに耽れば浮かぶのは彼の事だった。

ちゃんとご飯食べているのか、とか。
皺が入ったシャツを着ていないか、とか。
髭をだらし無く伸ばしたりしていないか、とか。

今の僕には考えるべき事なんか他にもいくらでもあるのにふと考えてしまう事はいつも同じ事だった。
メールや電話からは見えない彼の事を思う事で僕の中は一杯だった。

見えなくても誰かが教えてくれる環境ではあったけど、僕の目で彼の事を知りたかった。
ルドガーやレイア、他のみんなから聞く彼の話は僕を安堵させるよりも胸を苦しくさせたからだった。
昔はもっと側で彼の行動も過ちも見ていたのに、それを目で追う事が出来ない今が苦しくもどかしいものでしかなかった。

『でさー!アルヴィンってばユルゲンスさんとちょっとした事で喧嘩しちゃってクランスピア社で揉めて大変だったんだよー!』
『少し前の事ですけど、アルヴィンとカフェで昔の話をして貰ったんです』

ニ・アケリア霊山で孤独に苛まれてひとりぼっちだった彼はもう居ない。
僕が手を差し伸ばさなくても、誰かが彼を気に留めてくれる。側に居てくれる。
僕が側に居なくても誰かが彼の賞賛も過ちも知っている今が喜ばしい事なのに何処か寂しいと思えた。


「よう、ジュード」

そんな彼が久しぶりに僕の家にやって来る事になっていた。
彼の届けてくれた果実を卓上に並べて出迎えれば、彼はまた果実を抱えて玄関に立っていた。

「仕事終わるの早かったんだね。もっとかかると思ってたよ」
「まぁな、久々にトリグラフでゆっくり出来るんだ。仕事なんかすぐに終わらすさ」

アルヴィンは果実を玄関の所に置くと、部屋の奥まで入って来てソファーに腰をかけた。
切り分けた果実を食べながら僕達はこの前から今までの下らない話をした。
レイアから聞いた事、エリーゼから聞いた事、それをアルヴィンの言葉で聞いた。
そうするとさっきまで胸の奥でモヤモヤとしていた感情が消えたかの様に心は穏やかとなった。

「でも本当おたくとこうやって話をするのは久しぶりだな」
「……そうだね、一緒に旅に出たのはペリューンの時以来だね」
「まぁ、あれは旅っていう感じじゃないけどな」
「色んな事があったからね、でもアルヴィンの事はみんなを通していろいろ聞いてるよ」
「そうか」

それ以上の言葉が続く事はなくアルヴィンは卓上の自慢の果実に手を伸ばし口に頬張る。
もっともっと彼の言葉で、彼の声で彼の話を聞いていたいのに、なんて思っていた。

「どうしたんだ、憂鬱そうな顔して。あぁ、さては俺の情報がいつも後回しなのが嫌なのかー」
「べ、別に僕はそんな事思ってないよ」
「冗談だってそんなに怒るなよ」

僕の心を見透かしたような言葉に心音を乱して言い訳のような言葉を取り繕うと彼はいつものようにからかうようにそう言った。
しかしその言葉の返しを上手く思いつかないで無音になるとアルヴィンは何かを閃いたように僕の側にやってきて耳元に顔を寄せた。

「……じゃあ、俺だけしか知らない俺の事をジュードに教えてやろうか」
「……え?」
「俺がジュード君の事大好きな事」
「………!!」
「顔真っ赤にして可愛いなぁ、ジュード君」

僕が欲しかった彼の秘密と愛の告白に更に心音を乱せば顔は赤くなり行き場の無い手で白衣の裾を握りしめた。

「で、俺もジュードの事知りたいと思ってるんだけど」
「………?!」
「あぁ、お子様のジュード君には早かったか?」

アルヴィンの方に振り向けば、悪戯とは言い難く表情を歪ませて返事を待っている彼が居た。
僕は彼の顔を見つめ、彼が待っている返事をした。

「………馬鹿にしないでよ!僕だってアルヴィンの事が好きなんだから………!」

その言葉を吐いた瞬間に彼の腕が僕を包み、彼の熱が僕の身体の体温を上げるのを感じた。
彼の香水の香りが染み付いた背広に顔を埋めて腕を回せばここ数日のモヤモヤが嘘のように無くなった。

「ねえ、もっと僕に教えて。アルヴィンの事を全部」
「いくらでもしてやるよ、でもそれよりおたくとの未来の話がしたい」
「欲張りだね」
「………お互い様な」


『きみとぼくの話』

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