ベッドに寝転がって半日もすると、俺の隣の部屋のドアが閉まる音がした。
本当はジュードが戻る前に机の上に本を戻してしまいたかったのに、と悔やみながら俺は隣の部屋へと向かった。
ノックもせずに部屋に入るとこの部屋の空気は悪くなり沈黙が続いた。

「……」
「……」

ただ、本を返せばそれで済むはずだった。
けれど、それ以外にちゃんと言わないといけない事があった。
“ごめん”と一言口に出せばいいのに、それすら出なかった。

「……怪我大丈夫?」
「……なんともない」

この状況に痺れを切らしたのかジュードの方から俺にそう、声をかけてきた。
嫌いと言い合った口先で始めた会話は当たり障りのないものだった。
会話の後に再び沈黙になるのを恐れ、手に持っている本をジュードへと手渡した。

「これ……」
「ありがとう……アルフレド」
「……転校するのか?」
「うん……」
「俺が消えろって言ったからか、それとも俺から逃げる為か」
「そんなんじゃないよ、それに……逃げてたのは君でしょ」

縮まる事のない距離で俺達は会話をした。

「逃げてなんかない」
「逃げてるよ、だってあの日からずっと僕に怯えてる」

俺はジュードに謝りたいと思っていた。
けれど謝って自分の心が傷つく事を怯えていた、結果的に言えばジュードの言ってる事は間違いないのだろう。

「……お前には敵わない……。ただずっと、ごめんって一言言いたいだけだった。けど、言って自分が傷つくのが怖かった」
「人を傷つけて、自分が傷つくのが怖いって横暴な話だよね」
「……わかってる、だからこうやってお前に何か言って貰えないと素直に言葉にすらできないんだ」

苦しみながら感情を吐き出した。
返ってくるジュードの言葉が痛い程に突き刺さり挫けそうになりながらも言葉を続けた。

「……許してくれなくていい、悪かった」
「……」

続けた言葉にジュードからの言葉は返る事なく再び沈黙となる。
時間が止まったように部屋の中は静かだった。
この心が折れそうな程の長い沈黙の末にジュードは話し出した。

「……あの時の事を考えると許せない気持ちがある。やっぱり君は僕にないものを持っていて贅沢だから」
「……」
「父さんと母さんが亡くなって蹲る事しかできなかった僕にアルフレドがああやって僕に苛立ちをぶつけたのは君も君の父さんと母さんが好きだからってわかった。……厳格で仕事ばかりで寂しい思いも沢山したけど、僕を憎む程に両親が好きな君のお陰で僕も父さんと母さんが好きだった、大好きだったって事を思い出した。父さんと母さんのような医者になる。だから僕は転校するんだ」

俺がジュードの言葉に両親を想った時、ジュードも同じように俺の言葉で両親の事を想っていた。
お互いを憎みながら、嫌いながら、その陰で感謝していると知った。
俺はこの時思い出した、俺達は双子だったのだと。

「だけど君にちゃんと感謝を伝えられる程まだ大人じゃないから、子供の悪戯だよねって笑えるようになったらちゃんとお礼が言いたい」

憎しみあっていたから言えずに居た本心がお互いにはあったんだとジュードの言葉で気づいた。
その事に気づいた瞬間、俺のこの感謝もいつか素直に伝えられる日が来るかもしれないと思いジュードの言葉に続いて呟いた。

「……俺もその時に伝えたい言葉がある」
「じゃあ、大人になった時に……ね」

そう言って俺達は約束をして別れた。
ジュードがタリム医学校へ転校したのはこの事のすぐあとの事だった。
お互いがまた関わり合う事のない世界で別々に歩いて行った。

憎しみが許せるぐらい大人になるまで。


『白昼メランコリー』

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -