保健室に辿り着けば、保建医が青い顔をして出迎えた。
ガラス片の刺さった拳を見て病院に行きましょうと言って、俺は授業を放棄して病院へと向かった。
この町で一番大きな病院へ保健医の付添を断り、受付も済まさずにこの病院の一室へと向かった。
しばらく院内を歩いて辿り着いた扉を開けると母方の従兄にあたるバランが書籍を見ながらくつろいでいた。

「アルフレド、久しぶりだね。今は学校の時間だろ? どうしたんだい」
「怪我したんだ」
「……これはまた大変な事をしたね、手を見せてごらん」

バランは俺の手を見ると溜息を一つ吐いて呆れ返って俺に手招きをした。
手の甲からガラス片を取り除き、消毒をして包帯を巻く一連の作業は瞬く間に終わった。

「何でこんな事をしたんだ? 君の父さんは知ってるのかい」
「知らない……ただ」
「ただ?」
「……何でもない……あっ」

片手で持ったままのジュードの本が床に落ちて無造作に本が捲られ間に挟まれた紙が床に散らばる。
バランもそれを拾うのを手伝ってくれたが、一枚の紙を拾い上げるとバランは拾うのをやめた。

「手伝ってくれよ」
「アルフレド、転校するのかい」
「なんだよ? しないけど」
「じゃあこれはアルフレドの物じゃないのかな?」

バランが俺に見せた紙は医学校への転校の申し出の紙と編入試験の合格通知だった。
俺はジュードが転校するという事を今日、初めて知ったのだった。
転校先はタリム医学校と書いてあり、どう考えても今一緒に住んでいる家からは登校する事が出来ない学校だった。
ジュードは昔俺が言ったように俺の目の前から消えようとしているんだと、何となく悟った。

「アルフレド、どうしたんだ」
「何でもないよ、バラン。手当してくれてありがとな」
「……アルフレド」

俺は学校に帰る気になれず、自宅へ帰ると召使達が不思議そうにしていた。
そのままベッドに寝転がり、ジュードの本と挟まれた紙を見つめる。
俺は謝る事も出来ないまま、ジュードと離れてしまうような気がしていた。
それではいけないと分りつつも、一歩出る勇気なんて俺にはなかった。


『白昼メランコリー』

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