僕ら四人が居る部屋の外から複数の足音が聞こえ、各々が武器を構え用心する。
わずかに開いたドアの隙間から見えた銀髪に別世界の彼等は武器を下しドアを開けた。

「悪いルドガー、少しややこしい事になっちまって」
「いや構わな……」
「ルドガー? どうしたの?」

部屋に入って来た人物に僕は見覚えがあった。
彼は僕がアルフレドと出会った日に局長のマンションに居た局長の弟だった。
しかし彼等の世界の局長の弟、ルドガーと呼ばれる人物の表情は明るくはなかった。

「……時歪の因子」
「見つかったのか?」
「……違う、この世界の……」

エージェント達から聞いた事がある言葉、時歪の因子。
その言葉を呟きながらルドガーは顔を背け指を指した、その指された先に居るのは--僕だった。

「でも、前のローエンみたいに明らかにヤバい感じじゃないだろ」
「それは取り憑いた時歪の因子が取り憑いた人物の欲望が強調されるから……なんだよね」
「ますますややこしい事になったな……けど」

僕は彼等の話す内容を理解する事が出来ずアルフレドを見るとアルフレドも同じ気持ちだったのか目線が合う。
僕が小首を傾げるとアルフレドは首を振った。

「……この世界は分史世界って言って、無くさないといけない世界なんだ……」
「どういう事……?」
「俺達は正史世界という世界から、分史世界を破壊する為にここに来たんだ。……言っとくけど、トリグラフに火を放ったり、民間人を殺したのは俺達じゃない」
「世界を破壊するってどういう意味だよ?!」
「そのままだよ、君たちの存在ごとこの世界は消滅するんだ。……時歪の因子を破壊して……」

別世界の僕が言う言葉を受け止める事が出来ず言葉に詰まる。
大切な事に気付いたというのに、もっと彼と親しくなりたいと思ったのに、全てが手遅れだと言われたように思えた。
世界が消えるという大き過ぎる恐怖よりも、大切な人を失う恐怖の方が僕を硬直とさせた。

「つまり、お前達の世界の為に俺達の世界は消えろって事か……」
「……そうだ」
「随分身勝手な話だな」
「あぁ、俺もそう思う」
「わかって欲しいなんて言わないよ……、だから君の中にある時歪の因子を破壊させて……」
「……」

二人の背後に居るルドガーが時計のような取り出し掲げようとしている。
それがどういう意味かはわからないけれど、その動作が終われば僕達はもう終わってしまうような気がした。
だから終わるなら最後に彼に大切な事を伝えようと思った。

「待って!!」
「……?!」
「お願い……少し時間が欲しいんだ……そうしたら、ちゃんと受け止められるように頑張るから……!」

僕の悲痛な叫びにルドガーは掲げようとしていた腕を下し一歩下がった。

「ねえ、約束して欲しいんだ……」
「……うん」
「僕達が消えても、ずっと二人一緒に居て欲しい……今僕にある願いはアルフレドと側に居たい、それだけだから……」
「ジュード……」
「たしかに欲望がそれだけだと暴走しない訳か」
「アルヴィン……。……ごめんね、その約束は出来ないよ。僕もずっとアルヴィンと一緒に居たいと思うけど僕達の世界だって分史世界にならない保証なんてない」
「……」
「けど、僕達がもし全ての分史世界を消す事が出来たら魂の浄化が正常になる。そうしたら君も君の大切な人も未来で産まれる。だから君の続きは君が作ればいいんだよ」
「また……アルフレドに出会えるかな……?」
「こんなに偏差が違う世界でも君たちも僕達も一緒に居るから大丈夫だよ、それに魂を見守ってくれる人はとっても人間が好きなんだ。だから……」
「うん……わかった」

転生した時、僕とアルフレドが同じ時代で同じ国で産まれる保証なんてどこにもない。
たとえお互いが覚えてなくても、僕はその先を信じたくなった。

「アルフレド……」
「ジュード……」
「転生して、また出会って、それでもまたアルフレドに惹かれてしまったら……今度は何の邪念もなくアルフレドに好きって伝えたい」
「じゃあこれはそのままお前にやるよ」

アルフレドは僕が付けていたりリアルオーブを外し、僕の手の上に乗せてその手を握る。
僕とアルフレドが再開するきっかけになったリリアルオーブ。

「……俺の為に必死になったり、悩んだりしてくれる奴はお前ぐらいだから……短い間でも満たされたし嬉しかった。だからどんなに国も時代も年齢も違っても、探してやるよ」
「ありがとう、アルフレド……」

僕はアルフレドと繋がっている手をゆっくりと離し、前を向く。

「ありがとう、僕達に時間をくれて」
「もういいの……?」
「うん、大丈夫だよ。……けど、君が居てくれたから僕はあの人に出会えた。だから僕はアルフレドに巡り会う事ができたんだ。ありがとう……」

そう伝えて静かに目を閉じてリリアルオーブを握り、この世界の終わりを待った。
アルフレドとの約束が果たされる事を願って。

「……好きだよ…………アルフレド……」


『巡る器の還る場所 終着点』


「やぁ、新マクスウェル。久しいね」
「そろそろ新はやめないか、オリジン。もうあれからどれぐらい経ったと思ってる」
「そうだね」
「人間界を眺めているようだが何かあったのか」
「人間が興味深くてね。どんなに絶望的な状況でも希望を見つけようとしている。そんな魂が転生する所を見ていたんだよ」
「それが人間の素晴らしい所だからな」
「うん、だから僕は人間が大好きなんだ」

プリミア暦X305年

「次の問題出すぞー、プリミア暦4304年にリーゼ・マクシアを統一し翌年リーゼ・マクシアとエレンピオスを融和させたリーゼ・マクシアの国王は?」
「ガイアス国王!」
「じゃあ、次は--」

医学校に通う僕が今受けている授業は医学でもない歴史の授業だった。
僕らの学校が親善使節団として選ばれ、明日エレンピオスへ向かう前の事前授業だと教師は言っていた。
教師が語る歴史に何故だか心弾むような思いがあった。

「ジュード・マティス博士です」
「正解だ」

とある偉人の名前と同じで僕の名前もまた、ジュードそう名付けられていた。
同じ名前だから、という訳ではないけれど医学に携わる者として尊敬していた。

「じゃあ、事前授業はこれくらいで……明日は忘れ物がないように! あと1日目はトリグラフ旧市街に行くから出来るだけ身軽な恰好で。それでは明朝、解散」


翌日僕ら親善使節団は古くからあるマクスバードと呼ばれる橋を渡りエレンピオスへ渡った。
そして案内員の説明を受けてトリグラフ旧市街の観光に向かった。
かつて黒匣工都市と呼ばれ栄えた都市も源霊匣が普及してから人間は黒匣を手放し、いつの時代からか遺棄されたと授業で習った場所だった。

「どうしよう……迷っちゃったかもしれない……」

初めて見るはずのトリグラフの町並みに惹かれ、眺めていると気付けば僕一人になっていた。
急いで学校の皆を探そうと駆け回るも、入り組んだ市街地の作りで迷子になってしまったようだ。

「……ここでじっとしてても仕方ないから、探さなきゃ……! ……っ!ご、ごめんなさい!」
「あぁ、大丈夫だ。怪我は無いか?」
「はい!」
「……これ、今ぶつかった時落ちたんだけどおたくのか?」

再度皆を見つけようと意気込んで振り返れば、僕より背の高い年上の男性にぶつかった。
その男性は僕が落としたというものを差出した。
それは母親が僕が産まれた時に持っていたとか産まれた日に空から落ちて来たと言っていた円盤状のものだった。
用途がまったくわからないけれど、物心付いた時からそれがあると何故か安心し常に身につけていた物だった。

「ありがとうございます……! これ、すごく大切にしている物なんです」
「なら良かった」
「あの……」
「あぁ、俺はアルフレドだ」
「アルフレドさん、ありがとうございます……僕はジュードと言います」
「ジュードか、よろしくな。そういえば迷子か? こんな所で一人で」
「……そうです。気付いたら逸れちゃってて……親善使節団の皆と……」
「あぁ、医学校の子か? 俺、そこの学生が研修する学校に知り合いが居るから連絡取ってやるよ」
「ありがとうございます、アルフレドさん!」
「気にするなよ、ほら行くぞ。ジュード」

そう言ってGHSを取り出しながら僕に呼びかけるアルフレドを追いかけた。
僕の心はとある時代の歴史を聞いている時よりも弾んでいた。

その器の始まりと顛末を知る大精霊達だけが僕らの出会いを微笑むように見守る事だろう。


END

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