僕は僕と出会った。
確信はないけれど、目の前に居る僕こそアルヴィンが想い焦がれていた相手なのだろう。

『ジュードは医学にとても詳しかった』

アルヴィンの言葉が脳裏に浮かび僕はなり振り構わず口を開いた。

「アルフレドを治療して下さい……お願い……」

僕はアルヴィンにとっての僕にはなれなかった、だからアルフレドを治療する事もできない。
そんな自分を苛める事になってもいい、アルフレドを助けて欲しいと思ったからだった。

「君は……この世界の僕……」
「そうだよ、でも僕は君みたいに治療する事はできないんだ……だから、アルフレドを助けて」
「うん……」
「ったく、この世界はどうなってんだよ。あちらこちらで火の手は上がるわ、武器振り回す奴は居るわ……おい、ジュード……そろそろ………?!」
「あ、アルヴィン……!」

通路の奥から現れたのは、アルヴィンとアルフレドと同じ顔の人間。
きっと、目の前に居る僕の世界の彼なんだと思った。
親しく会話する姿を見て少し羨ましい、そう感じた。

「おいおい、これは何の冗談だよ」
「この世界の僕だよ……負傷した人を治療して欲しいって、だから僕……ほっとけなくて……」
「けど治癒術使えるんじゃ」
「使えない、使えないんだ……僕は、彼を癒す事ができないんだ……でもほっとく事なんて出来ないんだ……だから助けて欲しい」
「うん、だから行こう」

僕は後ろを振り返りドアを開け、2人を部屋の中に入れるとアルフレドは驚いたように2人の姿を見た。
それはそうだろう、自分とまったく同じ姿の人間が居るのだから。

「アルフレドってやっぱりアルヴィンの事だったんだ……」
「まぁ、本名だしな」
「どうなってるんだ、ジュード……?」
「どうしてもアルフレドの治療をして貰いたかったんだ……だから……」
「ジュード……」

アルフレドの側に別世界の僕が近寄り、手をかざせば魔法でもかかったかの様にアルフレドの傷は治癒した。
その姿を見て一安心し胸を撫で下ろしアルフレドの側へ向かう。

「ねえ、教えて欲しいんだ。この世界で今何が起こってるか」
「……わからないんだ、ごめんね」
「あぁ、俺もわからない」
「そっか……」
「とりあえずルドガー達に連絡するよ。こんな所で分散して行動するのは良くない。だからジュード……」
「そうだね……出来れば、助かる人だけでもって思ってたけど……」

別世界の僕とアルヴィンは羨ましいと感じてしまう程に仲が良かった。
その姿が僕の心には少し辛かった。

「とっても仲が良いんだね」
「そうかな? ねえ、アルヴィン」
「さあ、どうだろうなあ。なんだ喧嘩でもしてるのか?」
「そんな事してねえよ……」
「ただ、出会いが複雑だったから……」
「そんなの僕らも一緒だったよ、色んな事が沢山あったけど今は信頼している大切な人だよ」

僕もそんな風にアルフレドと信頼し合えるような関係になれたらいいのに。
ふと頭の中に過った願い、思い描いた姿はアルフレドの姿だった。

「でも、あれだけ必死に助けてっ言ってたんだから。それはもう仲良しなんだと思うよ。だから羨む事なんてないと思うよ」
「ありがとう……」

別世界の僕の言う言葉に僕はひとつ大切な事に気付いた。
僕が助けたいと願ったアルフレドにあのアルヴィンを重ねて見ていないことに。
今、僕の横に居るアルフレド、僕を守ってくれた彼の側に居て彼等のように信頼し合える関係になりたいと僕は気付いた。


「巡る器の還る場所 10」

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