アルフレドに手を引かれ辿り着いた場所は大きな研究所のような施設だった。
建物前にはトリグラフから避難してきた人で溢れかえり、パニックに陥っていた。
その人混みに紛れ、フェンスを背に僕らは一息を吐く。

「ここまで来ればなんとかなるだろ……、一体何なんだあれは……」
「……ありがとう……アルフレド……」
「あぁ」

繋がったままの手を離す事は出来ず、ただ自分を落ち着かすように深呼吸をする。
思えば社長とエージェントと共にあの地下室を出てから僕に流れる時間に休止という言葉はなかった。
この数日で僕の身に降り掛かって来た出来事を考えればこの先は不安しかなかった。
だからこの手を離す事はできなかった。

「ったくトリグラフを燃やして何がしたいんだよ……」
「……わからない、けれど……これで終わりとは思えない……」
「怖い事言うなよ。……ただ、俺もそう思う。何の声明文も出さずにあれだけの事をするのは異常だ……」
「うん……?!」

僕らは交互に不安を語り合いそれでも気持ちを静めようとしていると、人混みから叫び声が聞こえて来る。
一瞬にしてその悲鳴を上げた主の周りから人は離れ、異様な外見の人間が刃物を持って立っていた。

「せっかくトリグラフ燃やしたのに、気配がどんどんコッチに来ると思ったらこんなに逃げてやがるぜ。人が多過ぎてどれが当たりかわかんねぇけどやっぱこれがてっとり早いよなァ」

異様な外見の男は刃物を振りかざし、手当たり次第に人を殺害しようとしていた。
僕らが恐れていた不安が的中し僕らを取り囲む空間は慌ただしい空気に包まれる。

「ジュード、立て!逃げるぞ!」
「うん……!」

『あぁあぁ、そんなに逃げたら一気に片付けたくなるだろ』
『やめとけ、あんまり使いすぎると俺達が時歪の因子になってしまう』
『ちっ、すぐ追いついて来やがって。今回は俺の勝ちにしたかったんだけどな!』

逃げる背後でこのパニックを引き起こした男が高らかに笑った。
その声に気を取られていると、研究所の段差に足を引っかけ転びそうになる。

「あっ!」
「おやぁ、逃げ足の遅い奴が一人いるなあ。まぁ誰だっていいんだけどな、破壊さえできれば」
「ジュード!!」

僕が姿勢を崩したと同時に僕の背後から投げナイフが投げられ、僕に刺さる瞬間にアルフレドが大剣でナイフを薙ぎ払う。
そしてアルフレドは僕の腕を掴み、研究所の奥へと懸命に走った。

「……こんだけ逃げりゃ……少しくらいは撒けただろ……」
「……ありがとう……やっぱり僕はいつもアルフレドに助けられてばっかりだ……」
「俺が守ってやるって言ってそうしたんだ、だからそんなに気にするな」
「……うん……あれ、アルフレド……血が……」
「あぁ、ナイフが擦ったのかもな。これぐらい平気だ」
「平気じゃないよ……!僕……何か手当するものを探して来るから……!」
「何言ってるんだ?! これぐらいなんとかなる」

『怪我人は居ませんか?!』

「ほら、部屋の外に人が居るみたいだから……ね、僕……すぐ戻って来るから!」
「ジュード!」

僕の不注意で怪我をしてしまったアルフレドをそのままにする事が出来ず、繋がれていた手を離し僕は声の元へと走った。
声の主は部屋のすぐ外に居て、『怪我人です。助けて下さい』そう伝える前に僕の行動は停止した。

「君は……」
「僕が……もう一人……?」

僕の目の前には身なりは違っていてもまったく同じ顔の僕が立っていた。
僕はなんとなく気付いてしまった。
僕の目の前に居る僕と同じ姿の彼こそが、"僕がなりたかった僕"なんだと。


『巡る器の還る場所 9』

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